2023年3月30日(木)

Wedge REPORT

2023年2月18日

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河合香織 (かわい・かおり)

ノンフィクション作家

1974年生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。東京大学大学院で修士号取得。2019年に『選べなかった命─出生前診断の誤診で生まれた子』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。著書に、『分水嶺ドキュメント コロナ対策専門家会議』(岩波書店)など多数。

女性にしか味わえない
複雑な喜びがある

 女性たちに同調する根底には、自身の母親への思いがあった。椎名は「私は先天性食道閉鎖症などを伴う奇形で生まれた」と語る。

 病気がすぐに見付かったわけではない。母乳もミルクも何も消化できずに、もう助からないと思われた。偶然その病院を訪れていた森川康秀医師が原因を突き止め、2日に及ぶ大手術を行い、椎名の命をつなぎとめた。

「母は病気だった私を育てるのに、容赦なく厳しかった。何があっても病気を言い訳にせず強く生きていけるよう、しつけなければならなかったのでしょう」

 

 椎名自身も、子どもを産み、自分も同じ母という立場になった時、「母を理解できた」と語る。

「その瞬間に、世界中の女性、老いも若きも、自分の母と重なった。自分の人生でなく、次の新しい世代に対して、無償で尽くしてしまうのが女性の性だと思い知った。けれど、その女性たちへのケアは誰がするのか。そのことに思い至ったとき、彼女たちへの愛が溢れ返ってきた」

 その思いは、子を産んでいようと、産んでいまいと変わらない。

「女性がそういう生きものなんだと思った時に、哀れみだったり、慈しみだったり、愛おしみだったりがやり場のないほど湧いてきた。私が、生涯を通して関わってゆくべき、表現してゆくべき対象だと思ったんです。大勢すぎるし、記号的でもあるし、一人ひとり考えも違う。けれども、全ての女性性が、自分に無償の愛情を注いでくれた母と重なって見えたし、わが子とも重なって見えました」

 自分の人生は自分だけのものではない。かといって、自分の子どものものだけでもない。その複雑な喜びは、女性にしか味わえないのではないか。母であるかどうかによらず、女性だけが感覚的に知っている眩しさがあるんだと感じた。

 彼女はすべての生きものを包み込む愛情の不思議な感覚に圧倒され、最後には、音楽を発信していく道を選んだ。

 だが、「女性のことを考えている」と椎名が発信すると「味方をしてくれて嬉しい」という反応が女性たちから届く一方で……(続きは下記リンク先より)

全文は『Wedge』2023年1月号に掲載されております。また、この記事単体をアマゾン楽天ブックスの電子書籍「Wedge Online Premium」でもご購読いただくことができます。

  
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