2024年12月23日(月)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年11月28日

 「Wedge」2022年11月号に掲載されている連載 Letter 未来の日本へ『運命に抗うなかれ 「偶然」に適応する力』記事の内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。
出口治明 Haruaki Deguchi
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
ライフネット生命 創業者
1948年生まれ。京都大学法学部を卒業後、72年に日本生命に入社。ロンドン現地法人社長などを経て2006年に退職。同年ネットライフ企画(後のライフネット生命)を設立。18年より現職。著書に『0から学ぶ「日本史」講義』(文藝春秋)、『復活への底力』(講談社現代新書)など。(写真=中村 治)

 「発病前、340日働く」

 言葉を発してそれが思った音と違う場合は、口の形を大きく何度も変えて、発話にあった形に調整し、一呼吸置いて胸に左手を当てる。それでも伝わらないと思ったのか、白いスケッチブックに、利き手ではない左手で文字をゆっくりと綴った後に、こう付け加えて笑顔を見せた。

 「でもサボりはあった」

 2021年1月、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明は脳卒中で倒れた。右半身が麻痺し、そして一時的に言葉を失った。

 出口はライフネット生命を創業した経済人であり、1万冊以上の本を読破した知の巨人でもある。病気になる前は、大学のある大分県別府市と東京、さらに全国を飛び回り、年間340日働き、休みもほぼなかったという。けれど、忙しくて休む暇もなかったから病気になったのではないか、という因果を出口は拒む。

 「寝ることと食べることが好きだから、(当時から)よく寝たしよく食べた」

 その生活は今も変わらない。現在は生活サポート付き住宅に暮らすが、朝晩出される食事を残したことは一度もない。今年になって学長に復帰し、4月の入学式では電動車いすから祝辞を述べた。

 言葉を失った当初は「はい」「あーあー」という言葉しか出なかったが、現在は詰まったり、行きつ戻りつしながらも、文章として言葉を話すことができるまでに回復した。

 周囲の人たちは、その復活は奇跡的だという。では、普通では諦めてしまうような懸命なリハビリがあったのだろうか。そう問うと、出口は否定した。


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