「バイデン外交」健在をアピール
また、英「インディペンデント」紙は、今回の米大統領ウクライナ訪問に関連して「バイデンは、キーウにおいて2024年再選キャンペーンに乗り出した」と題する以下のような論評を掲載した:
「米大統領の今回の訪問は、ウクライナ国民、なかんずくロシア軍によって殺された何千人の兵士、民間人遺族たちの士気を高めたことは確かだ。しかし、ホワイトハウスは認めていないものの、バイデン氏にとってのより重要な聴衆――それは米国民、そして2024年大統領選有権者であった」
「大統領は相変わらず支持率は50%以下と伸び悩み、なんといってもすでに80歳の高齢であり、2期目を終えてホワイトハウスを去るには86歳になるという〝年齢障壁〟を抱えていただけに、すでに出馬表明しているトランプ氏含め共和党有力者たちは、ジミー・カーター、G・H・W・ブッシュ同様の『1期のみの大統領』として終わらせようと手ぐすねを引いていた」
「ところが今回、真のヒーローとなったゼレンスキー大統領と並んで戦闘ゾーンを極秘訪問することで、まだ自らの健在ぶりを誇示するまたとないチャンスとなった。まるで『ミッション・インポシブル』のような快挙をTVで見てトランプ氏がどうコメントしようとも、ジェラシーを感じたことは否定できず、ニッキー・ヘイリー元国連大使、ロン・デサンティス・フロリダ州知事も同じ気持ちだろう」
「バイデン氏は、アフガンからの米軍撤退という大失態を演じたものの、今回、ウクライナ戦争への取り組みとNATOおよび同盟諸国の結束をもたらした点で、おそらく高い評価を得た。しかし、同時に危険も存在する。彼はこれほどまでにあからさまなウクライナ支持を表明した結果、米国大統領としての評価、再選への希望も含め、すべてを今後のウクライナ情勢の展開に縛り付けたことを意味している」
同紙の指摘通り、ウクライナ電撃訪問で一時的に点稼ぎしたとはいえ、バイデン外交にとっての不安材料は尽きない。
そのひとつは、西側同盟諸国に働きかけ、ウクライナへの経済・軍事支援、ロシアへの経済制裁、貿易制限措置などを果敢に打ち出してきたにもかかわらず、プーチン体制は表向き、ひるむどころか、「制裁を科してきた諸国はロシアの敵国」だとしてかえって戦意をむき出しにしている点だ。
ロシア経済も、昨年1年間の国内総生産(GDP)が前年比2.1%にとどまるなど、西側の予想を下回り、日米欧などの経済制裁効果が限定的となっている実態が明らかにされた。 プーチン大統領支持率も80%台で推移しており、ウクライナ戦争長期化による国内における目立った〝厭戦ムード〟は今のところ見られない。
西側の一部には、さらに制裁を強化すれば、ロシア国民経済への影響が深刻化するとの見方があるものの、具体的な数字の裏付けを欠いたままとなっている。
第二は、対ウクライナ〝支援疲れ〟が懸念される西側諸国の結束を今後もどこまで維持していけるか、にある。
世界の首脳らが懸案を議論するため去る21日、開催された「ミュンヘン安全保障会議」では、ウクライナへの軍事支援強化策などが主要テーマとなったが、「今後3カ月で昨年1年間以上の武器供与をする」(スナク英首相)、「今はロシアと対話する時ではなく、長期戦に備える必要がある」(マクロン仏大統領)といった積極論が出る一方、ショルツ独首相が「戦争の意図しないエスカレーションを避ける必要もある」と慎重論をのべるなど、各国の温度差があらわになった。