2024年7月16日(火)

バイデンのアメリカ

2023年2月24日

顕在化しつつある米国内の溝

 米国内でも、ウクライナ支援をめぐる世論の亀裂がみられる。

 AP通信が実施した最新世論調査結果によると、対ウクライナ武器供与について29%が「支持」したのに対し、22%が「支持も反対もしない」と回答した。ウクライナ戦争勃発3カ月後の昨年5月実施した同様調査では,支持者は60%だったのに比べ、かなり下落したことを示している。

 また、対ウクライナ資金援助についても、「支持」37%、「不支持」38%と、ほぼ同程度の結果となった。

 バイデン政権のウクライナ政策について党派別に見ると、民主党員の40%が「大いに支持」、50%が「ある程度支持」と回答したのに対し、共和党員の76%が「不支持」を表明し、党派間の対立が深刻化している。

 さらに今回、バイデン大統領のウクライナ訪問めぐり、同じ共和党の中でも、上下両院での立場の違いが明らかにされた。

 ミッチ・マコーネル院内総務、リンゼー・グラム議員ら上院有力者らは「西側主要国の中でただ一人抜けていた米国大統領が遅まきながらウクライナに足を踏み入れたこと自体に大きな意味がある」として相次いで歓迎のコメントを発表した。しかし、同党下院議員の多くは「国内問題を優先すべきだ」として非難声明を発表しており、安全保障政策をめぐる党内分裂に発展しつつある。

気になる中国の動き

 こうした国内世論の微妙な変化とは別に、バイデン政権が重大な懸念を抱いているのが、中国の今後の動向に他ならない。

 米情報機関がこれまでに入手した機密情報によると、中国は国際世界で孤立化しつつあるロシアに対し、「極めて殺傷力の強い武器援助」を検討中といわれ、ブリンケン米国官もさる18日、米CBSテレビ会見の中で「もし、武器供与に踏み切れば、米中関係にきわめて深刻な事態を招くことを中国側に伝えた」と語った。

 昨年、ウクライナ侵攻開始の直前に行われた中露首脳会談でも、習近平国家主席がプーチン大統領に対し「無制限の援助」を約束したことも明らかにされているだけに、もし、中国が実際に対露軍事テコ入れに乗り出した場合、近代兵器、弾薬面での増産体制に限界が見え始めていると伝えられるロシア軍が息を吹き返し、今後の戦況を一変させることにもなりかねない。

 この点に関連し、米議会ではグラム上院議員も同日、「沈没寸前のタイタニック号に相乗りすれば、惨事を招く」として、中国の動きを強くけん制した。

 バイデン政権としては当面、こうした予断を許さない不確定要素が山積しているだけに、国内的には、国民の間の対ウクライナ〝支援疲れ〟を何とか食い止めると同時に、対外的にも、同盟諸国間の結束固めに腐心せざる得なくなりつつある。

 「ウクライナが戦いをやめれば国が消滅する。武力による領土奪取が正当化されればパンドラの箱を開け、紛争の絶えない世界になる」。ブリンケン国務長官が去る18日、「ミュンヘン安全保障会議」のパネル討論で、ウクライナに対する軍事支援長期継続の重要性を改めて力説したのもこのためだ。

 当面、「紛争の絶えない世界」には、中国による台湾武力統一も含まれることは言うまでもない。この点で日本にとっても、米欧諸国とともにどこまで継続的ウクライナ支援を担保できるかがまさに問われている。

 
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 ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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