ウクライナ戦争については、これがプーチンの妄想で始められたことが改めてはっきりした。誇大妄想と被害妄想の二つがある。誇大妄想はプーチンが帝政ロシアの首相、ストルイピンを引用し、「強くあること:これがロシアの歴史的な最高の権利」と述べたところに表れている。
被害妄想の方は「米と欧州の同盟国は元のソ連の衛星国をEUとNATOに引き寄せようとしてこの紛争を起こした。この戦争を始めたのは彼らである。我々は戦争を止めるために武力行使をしている。西側はウクライナを、ロシアを叩く槌として使っている」と述べたところに現れている。
プーチンは現実が見られなくなっている。ソ連の衛星国であった国々には主権国家として安全保障政策として同盟国を選ぶ権利があるし、経済連携相手を選ぶ権利もある。EU加盟もNATO加盟もバルト諸国を含む旧ソ連圏諸国の選択として行われたのであって、EUやNATOがこれに応じたという事である。
プーチンはウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と名づけ、エカテリンブルク市長のように「戦争」と言った人を逮捕してきた。にもかかわらず、今回の年次教書では自らこの紛争を「戦争」と言っている。支離滅裂である。
プーチンはこの年次教書前に何らかの戦果を挙げてそれを誇りたいとの意識があったと思うが、東部での戦果も上がらず、それはできなかった。また、この戦争を大祖国戦争という防衛戦争に見せたいと思っているのだろうが、このような試みは国際社会では相手にされない。ロシア国民は臆病であるが賢いところがあり、こういう宣伝には乗せられないだろう。
中国の仲介も信用されず
最後に中国のこの紛争への仲介についてであるが、ウクライナ側がクレバ外相の発言にあるように中国を信頼しておらず、西側も中国を信頼していないので、あまり多くは期待できないと考えられる。中露は、両国の戦略的協力に限界、天井はないと2月に共同で声明している。外交でこういう声明を出すのは異例であり、通常良い結果をもたらさない。
なお、プーチンはこの戦争に勝利するだろうとも言ったと報じられているが、この戦争の行方はまだわからない。戦争に勝つというのが、ロシアが戦争目的を達成するという意味であれば、ウクライナが生き残る公算が大きく、ロシアの戦争目的は達成できないだろう。他方、ロシア領への攻撃には制約が課されており、ロシアは負けないだろうという事も言える。