インフレから見えてくるもの
わが国では、「国際的な制裁を受けているロシアは、モノ不足と物価高にあえいでいるに違いない」と考えている人が多いのではないか。そこで、ロシアの物価統計を検証してみることにしよう。
ロシアの消費者物価の動向は図1に見るとおりである。2021年12月の物価を100とすると、最新の23年2月には113.4の水準となっている。うち、食料品は112.6、非食料商品は112.8、サービスは115.2である。
なお、公式統計が国民の感覚と合わないのはロシアも同じであり、ざっくり言うと、22年2月の軍事侵攻開始後に物価が1.5倍くらいに上がり、その後も高止まりしているといったあたりが、庶民の生活実感のようである。
いずれにしても、図1からは、激しい物価高騰が開戦直後の22年3月だけの現象だったことが分かる。開戦によるパニックと、それとも連動したルーブル安が原因だった。その後は、為替の持ち直しや、行き過ぎた値上げの反動もあり、夏にはむしろ価格下落局面を迎えた。
これには、ロシアでは夏に物価が下がりやすいという季節的要因もあっただろう。秋以降は、再び物価上昇に転じている。
図2には、主な食料品の価格動向を示した。目立つのは、砂糖がジェットコースターのような値動きを示していることだ。実は、ロシアでは危機が起きるたびに人々が買い溜めに走る食品がいくつかあり、砂糖はその代表格なのである(他には穀物の挽き割り、缶詰、パスタ類などがある)。
これについては、「第二次世界大戦中の食料危機を、砂糖をなめて乗り切ったから」といった説があるが、正確なところは良く分からない。22年2月の開戦直後も、人々が砂糖を求めて商店に殺到し、品薄と高騰が生じた。ただ、パニックは一時的なもので、その後はむしろ値段が下がっていった。
野菜・果物の価格変動は、ウクライナ情勢よりも、季節的な要因が大きい。寒冷地であるロシアでは、最近でこそ冬でもハウス栽培により一定の青果物が国内生産されているものの、基本的には露地ものが豊富に出回る季節に価格が下がり、冬になると輸入品が増えて価格が上昇するパターンを描く。