2024年4月15日(月)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年3月26日

住民参加型の会議を「条例化」した福岡県大刀洗町

 先駆的な取り組みを行う自治体は他にもある。

 中でも全国で初めて「住民協議会(自分ごと化会議)」の条例化に踏み切った福岡県大刀洗町は、行政・地方議会・住民の三位一体で地域の課題に向き合っている。小誌記者が訪れた2月中旬の日曜日の昼下がり、〝くじ引き〟で選ばれた住民をはじめ、町長や副町長に教育長、総務課と地域振興課の職員たちが続々と集まってきた。

 14年から毎年行ってきたこの会議は10期目を迎え、延べ参加者数は300人近くに上る。町の人口の約2%に及ぶ住民が参加したことになる。

 今年のテーマは「歴史ある住宅と城址の未来」。町内にある中世の平城「三原城」の地に隣接する築150年の屋敷の所有者から「管理が難しくなったため手放したい」との相談が町に持ち込まれたことがきっかけだった。

 屋敷を町として残すのか残さないのか─。ここから議論が始まった。全4回の会議では、実際に住宅を訪ねて雰囲気を肌で感じたり、歴史やまちづくりなどの専門的知見を持つ外部講師から新しい視点も得た。住民たちは「残す」ことを選択した。問題はどのように活用するのかである。

「町には子育て世代が増えたと実感する。子どもから大人まで集まれるような場所にするのがいいと思います」

「この屋敷の存在自体知らなかったけど、見学してみてお庭がすてきだと思った。お茶会などができるのでは?」

「地元の野菜を買えるところが少ない。週末だけでもいいから、地元の野菜を持ち寄って買えるような場所にしてはどうでしょうか」

 さまざまな意見が出た。中でも、3人の子どもを育てる平田未来さん(38歳)の言葉は印象的だった。「私が屋敷に入ってまず感じたのは、日常の忙しさを忘れさせてくれる心地よい『静けさ』。これを生かしたい。前回自宅に帰って中学生の娘に話したら『それなら集中して勉強できる場所がほしいと娘が言っていたと、参加者の皆さんに伝えてほしい』と頼まれました」と、会議には出席できない人の意見も表明する場面もあった。

 終始和やかなムードでありつつも、それぞれの意見を尊重しながら議論は進み、会場は一体感に包まれていた。

 40代の男性は「普段会社員として働く中では、『利益』や『時間』などを優先してしまいがちですが、主婦の方や高校生など、さまざまな人の考え方に触れられて楽しかったです。町のこともよく知れて、愛着も増しました。」と充実した表情で話した。

 会議の進行役を務めたのは、構想日本への出向経験もあり、群馬県太田市の職員として勤務する桑子幹弘主任。過去の経験も踏まえてこう話す。「今回は、ゼロベースで住民の意見を聞くという町としても初めての試みでした。加えて、難しいテーマだったと思います。それでも、いずれは誰かが考えないといけない課題についてさまざまな意見が聞けました。まずは一歩踏み出せたということで、それ自体が収穫です。大刀洗町の皆さんは他の地域と比べても前向きな意見の人が多い印象ですね」。

自分ごと化会議に参加した大刀洗町の皆さん。参加者からは「会議への参加を決めた時からすごくワクワクした気持ちで過ごしていました」「今日の会議も3時間では足りなかった。楽しかったし、もっと話したかったです」と閉会を惜しむ声も聞かれた

 住民協議会には、どのような意義があるのか。中山哲志町長に話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「それまで町や行政のことに関心がなかった人の意識や行動が変わっていきます。例えば、大刀洗町には議会運営に関するご意見を聞くための『議会モニター』という制度がありますが、メンバーの8人中6人が住民協議会に参加経験のある人です。町や地域のことを自分ごととして考え、行動する住民が増えていけば、大刀洗町はより良い町になると信じています。町として単なる任意の会議体ではなく条例化したのは、議論の結果を町の政策と結び付け、首長や担当職員が代わっても続けていくという本気度を示すためです。

 職員にも変化が見られます。住民の生の声を聞くことで行政職員としてのやりがいを再確認できたり、さまざまな有識者や構想日本など外部の方とのやりとりを通じて発想の幅が広がったりと、いい刺激になっています。今後のテーマとして流域治水の問題にも取り組んでみたいと考えています」

 住民協議会での議論の結果が実現した例も多々ある。例えば、21年度は「ごみを減らすために私たちにできること」がテーマだった。会議で提案されたのは「3R(リデュース・リユース・リサイクル)+C(コミュニティー)」という視点だった。町はこれを基に、環境ビジネスを展開するアミタホールディングス(京都市)と連携協定を締結。町内の4地区にごみの減量化と地域住民の交流の場として「MEGRU STATION」を設置した。

2021年の自分ごと化会議を経て設置された「MEGURU STATION(本郷地区)」。開発に携わったアミタの髙田大輔さんは「住民の方々と一緒に拠点づくりすることが重要。細部まで作らず、あえて〝余白〟を残すイメージで設計し、住民が使いながら完成させていくことがポイント」と話す
「MEGURU STATION(本郷地区)」に併設された薪ストーブ。このコミュニティーでセンター長を務める廣木俊二さん(左奥から2人目)は「ごみを持ってきてくれたついでにみんなで暖まれる場所を、と思って作りました。休日は親と一緒に子どもたちもたくさん来るから賑やかですよ」と微笑む
廣木さんらが1週間かけて建設したピザ窯。奥の畑で採れた野菜を使ってそのままピザを焼くという。休日には子どもたちも集まり、世代の垣根を超えてコミュニティーが形成される。「自分たちに必要な物やことを考えて、自分たちで実現していくのはすごく楽しいよ」(廣木さん)

 また、住民たちの憩いの場として知られる「大刀洗公園」に設置する遊具の検討や町内を走る西鉄甘木線の利用促進策などのテーマでも、会議を通して住民のニーズを汲み、その上で政策の実現に至っている。

住民協議会の答申内容が具現化された大刀洗公園の遊具。対象年齢別に2つのエリアに分けて遊具を建設し、「親同士で会話しながら子どもを見守れる場所がほしい」との声を受けて屋根付きのベンチを敷設(中央)。プロポーザル方式の過程では、答申がどれだけ反映されているかも評価対象にしたという
地元の鉄道(西鉄甘木線)を残すことも町の大きな課題だった。住民協議会では「残すには使うしかない」との声が多数上がり、利用促進のために、近接する町役場の駐車場の一部を開放する「パーク&ライド」事業に定期券利用者以外の駐車枠が生まれた。計21台の駐車スペースは、記者が訪れた当日も、ほとんどが使用されていた

 協議会の立ち上げ当初から運営に携わり、その変遷を知る村田まみ地域振興課長は「行政の政策には当然、反対意見もあります。そのため、どうしても〝守り〟の行政になりがちです。住民協議会があることで、他の住民の皆さんに説明する時、〝住民の声〟として伝えることができる。これはとても大きいです。一方で、生の声は、受け止める職員の側にもそれなりの体力と精神力がいります。外部のコンサルなどにお金を払って委託することもできますが、それでは私たちの手元には何のノウハウや経験も残りません。だから一職員として、汗をかく覚悟と努力をしますし、何より、やってて本当に楽しいですから」と答えてくれた。

「それに、町や行政に無関心な人が300人近くも減ったと考えれば、とてもうれしいです」とはにかんだ。


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