2024年4月30日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月15日

 米欧間には対中姿勢で微妙な違いがある。米国では米中経済関係のデカップリングが声高に語られる傾向があるが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はデカップリングではなく、「デリスキング(半導体など特定分野でのリスク軽減を行うとの考え方)」を主張している。EUの考え方が現実をよりよく反映していると思われる。また、米欧と中国との意見の相違をいたずらに大きくするのを避けることに資すると考えられる。

実態は既にデカップリングからは逆行

 米国と中国の貿易額は昨年最大の規模に達しており、「デカップリング」がなされているというよりその逆が起きている。そういう現実を踏まえないレトリックとしての「デカップリング」を声高に言うのはあまり意味がない。中国側の警戒心を高め、米国の意図は中国の封じ込め、発展の抑圧であるという中国の考え方をより強固にすることになる。

 イエレンはデカップリングの考え方を否定し、EUの「デリスキング」に明確に近寄っている。これは米中貿易の現実を踏まえた考え方である。それに米中の経済関係は相当緊密であって、そう簡単にデカップリングはできない。

 韓国のサムスン電子が米国への輸出用の携帯電話の組み立てを中国からベトナムに移した。その結果、ベトナムは中国からそのための部品を輸入することになり、ベトナムの対中輸入額が大きく伸びたとの例もある。デカップリングのための供給網の再編にもいろいろな問題がある。

 全ての政策は現実の分析の上に構築される必要がある。

   
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