2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月11日

 英フィナンシャル・タイムズ紙の4月15日付け解説記事‘Lula vows partnership with China to ‘balance world geopolitics’’が、ブラジルのルーラ大統領は、中国との関係強化と多極化する世界秩序への道筋を描くことを目的に訪中し成果を上げたが課題もあると解説している。要旨は次の通り。

 1月に大統領に復帰した、ブラジルのルーラ大統領は、3日間にわたる中国訪問の締めくくりとして、貿易の拡大と共に戦略的パートナーシップのレベルを上げて「世界の地政学のバランスをとる」ために中国と協力したいと述べた。ルーラは、より多極化した世界を作り、多国間組織を活性化することを提唱してきたが、これらは中国外交の中心的主張にも通ずるものである。

(代表撮影/ロイター/アフロ)

 ルーラは中国で手厚い歓迎を受け習近平国家主席から「古き良き友人」と賞賛された。両者は、インフラ投資から人工衛星の建設、貿易円滑化に至るまで、10以上の協定(100億ドル相当)に署名した。

 ルーラは、ブラジルと中国がともにメンバーであるBRICSの活性化を求めてきた。13日の上海でのスピーチで、ルーラは、BRICS内での貿易にドルの代替通貨を使用することを呼びかけて、米国当局者を驚かせた。ルーラは、さらに、習近平と共に行ったスピーチでは、米国の制裁対象であるファーウェイを訪問したことに言及し、ブラジルが中国人について何らの偏見も持っておらず、中国との関係改善を誰も止めることはないことを世界に示したかったのだと述べた。

 多国間主義に焦点を当てたことは、前任のボルソナーロが、トランプ政権下の米国や、ポピュリスト的指導者が率いるハンガリーやイスラエルなどとの関係を優先させたアプローチとは大きな違いがあることを示すものだ。

 ルーラは北京訪問に先立ち、ウクライナ紛争終結を仲介する国々による「平和クラブ」の創設について習近平と話し合うと述べていた。4月14日の共同声明で、両国はウクライナ紛争を解決する唯一の方法は交渉であることを強調した。しかし、ウクライナに関するメッセージは中国の主張を一部反映したものの、西側諸国がロシア寄りと批判している同紛争に関する北京のポジションペーパーを完全に反映したものではなかった。

 ルーラは、ことウクライナ戦争に関してはブラジルが貢献できることがあると信じており、 多くの人はこれをナイーブ(世間知らず)だと考えているが、ルーラは中国にはロシアに圧力をかける重要な役割があると理解している。難しいのは、中国が自らを中立的な立場に位置付けながら、明確に親ロシアの姿勢であることだ。

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 ルーラにとって、今回の訪中での主な成果は、以下のような点であろう。

(1)まず、前政権で冷却した二国間関係を修復し、さらに経済関係の一層の緊密化によって中国がブラジルの産業の立て直しに協力するよう求めることが重要な目的であったが、共同声明の相当部分が経済・技術面での協力強化に関するものであり、関係企業の訪問、15のセクター別協力協定を署名するなど成果を上げた。


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