2024年12月7日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月11日

(2)さらに、世界秩序の多極化と地政学上のリバランスを図り、国際的な役割を果していくとのルーラ外交について、中国の協力を得ることについても成果を上げた。具体的には、中国との包括的戦略的パートナーシップの下で、両国が国連、BRICS、主要20カ国・地域(G20)、その他の国際機関で協調すること、中国は、中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)、南米南部共同市場(メルコスール)、南米諸国連合(UNASUR)といった地域機関との協力を進めることに合意した。ブラジルは、来年のG20及びBRICSそして2025年の第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)の議長国であり、中国の協力を得ることは重要であるが、ブラジルが国連においてより大きな役割を果たすことを中国が支持したことに留意すべきであろう。

(3)ウクライナ和平への貢献については、両国は、対話と交渉がウクライナ危機を解決する唯一の可能な方法であることに合意し、ルーラは中国の和平提案を、習近平はルーラの「平和クラブ」構想をお互いに評価しあい、両国は、政治的解決を促進するためにより多くの国が役割を果たすことを呼びかけたとされる。

BRICSは中国の道具とはならない

 他方、中国にとっては、デカップリング(分断)政策や台湾問題で米国と対抗する上でブラジルを盟友と位置付け、上記のルーラにとっての外交的成果をそのまま中国外交にとっての歴史的成功として宣伝している。

 両国の関係強化は予想されたものであるが、今後ルーラ外交が順調に進展するかはやや疑問であり、中国も大きな成果を得たことは確かであるが、手放しで喜ぶほどでもないように思われる。その根拠は、主に次の二点である。

 第一に、ブラジル経済にどれだけ中国が貢献できるか不確実である。中国政府は、ブラジル支援に力を入れるであろうが、グリーン経済、農業関連ビジネス、デジタル経済等ブラジルが望む分野での投資がどれだけ進むかは不明である。共同声明では、一部で予想されていた一帯一路覚書への署名もなかった。

 第二に、中国としては、BRICSを米国に対抗する枠組みとして強化したいと考えていると思われるが、ルーラには独自のイニシアティブもあり、米中対立の文脈では、むしろ仲介役を果たすことも考えているようだ。また、インドもいることから、中国がBRICSやブラジルを中国の意向に沿って自由に動かせる道具として期待することはできないであろう。

 なお、台湾問題については、ブラジルは、「一つの中国」の原則を堅持し台湾は中国の不可分の領土であるとしつつも、両岸関係の平和的な発展を支持した。これは、中国側の意向に沿ったものではあるが、「台湾は我々の危機ではない」と言い放ち、後で釈明に追われているフランスのマクロン大統領よりはマシである。

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