久松:まったくその通りなんですよ。ぼくらが高校生から大学生のときにGATTウルグアイ・ラウンド(1986~95)があって、自由化論争が起こった。そのとき農家や彼らを保護している政治家が言ったのは「時期尚早だ」だったんですよ。それから30年経って、まったく同じロジックでTPPに反対しているわけですよね。
それはもう許されないだろう。30年間、何をやってきたんですか? と言いたい。今のままでは改革なんて、いつまでたってもできないんですよ。
小川:みんなで競争すれば、農業はすごく発展するはずなんです。ものすごい技術も、あるところにはある。
ただ、農家はみんな自分の技術を隠したがるけど、ほとんどは誰でもできることばかりなんですよ。久松さんは例外的にどんどん情報発信してくれますけど、その通りにやって真似できることは、実は誰でも真似できることなんです。
本当はさらにその上のレベルがあって、そこでみんなで競い合えばいいんです。土中の微生物をどう活用するかとか、そんなレベルで勝負できるようになればいい。いまあるのは産地間で栽培法を隠しあったりとか、すごく低レベルな争い。せいぜい「遮光ネットを使うかどうか」「照明時間を1時間伸ばすかどうか」とか、それくらいのレベルのはずです。そんなものは、真似したい人が真似できるようになればいいんです。もっとその上を行かなければいかない。
だから競争力がないんです。価格的な競争力だけじゃなく、品質的な競争力もない。質で競争できれば価格競争には巻き込まれないで済むはずなんですが、そこに対応できていない。
久松:たいしたモノじゃないと自覚しつつ隠しているのならまだいいんですけど、コアでもなんでもない技術を後生大事に守っているケースもおそらくあるんです。これは絶望的です。
ぼくがいる土浦市のJA土浦は、コメ10億円の出荷に対し、レンコンは40億円。行政も農協もレンコンのほうしか向いていない。それぞれの地区部会ごとに完全に閉じている。でもどの農家にも後継者がいて、売上も上がるんですね。
もちろん素晴らしいレンコンを作っている農家もいる。でも「土浦のレンコン」に絶対的なバリューがあるわけでも、レンコンの栽培技術に関して土浦に真似できないほどオリジナルなものがあるわけでもない。単にほかの地域で作られていないからなんです。栽培できる地域が限られるから成立する。そういうパターンもあっていいんですけど、これは稀なケースですよ。
小川さんがおっしゃったように、ほとんどの栽培技術は誰でも真似できるモノなんですよ。とくにいまは種の質がいいから。