米国は、可能な限りの拡大抑止強化策をまとめることに腐心したものと思われる。具体的に米国は、(1)米韓核協議グループの設置を受け入れ、(2)米原潜の韓国寄港を打ち出した。恐らく韓国は、北朝鮮へのインパクトの観点からB52など戦略爆撃機の展開を求めたのではないかと思われるが、それへの具体的言及はなかった。原潜の寄港による追加的な抑止効果は限定的だろう。しかしバイデンは共同記者会見で、「北朝鮮が核で米国や同盟国を攻撃した場合は、北朝鮮の政権は終了することになる」と述べ、強い抑止の意志を明らかにした。
米国にとっても大きな成果
他方、米国にとっても良い結果だったと言える。拡大抑止については従来の立場の範囲内(独自の核開発は認めない、戦術核の再配備も認めない)で対処し、韓国にNPT順守を呑ませ、独自の核開発を封印した。また韓国が求めてきている核燃料再処理についても二国間協定交渉の問題として処理された。核不拡散についての米国の強い態度が窺われる。
更に、日米韓三国協力への韓国のコミットメントが再確認された。共同声明でも、日米韓協力は強調されている。バイデンは、尹錫悦の日韓関係改善の努力を「感謝する」とまで言った。更に、中国という言葉はどこにも出て来ないが、韓国から米国のインド太平洋戦略に対する支持を取り付けるとともに、台湾海峡の安定の重要性への言及を取り付けた(共同声明)。ウクライナ問題の重要性にも言及した。
これらの意味合いは大きい。従来、尹は対中関係及び対露関係から、これらの言及については慎重に対処してきた。なお、バイデンは記者会見で、いかなる状況で核を使うかどうかは自分の専権決定事項だが、韓国と協議することに合意した旨を説明している。
拡大抑止の強化は、日米関係の問題でもある。米韓核協議グループに日本も参加し三国化する考えもあるとも報じられた。拡大抑止の信頼性確保には、宣言などによる政治的コミットメント、軍対軍の協力と信頼関係、世界観の共有など不断の努力が必要である。同盟国間の利益や負担の分担も均衡していることが望ましい。
岸田総理は5月7、8日と訪韓した。訪韓は良い決断だったし、主要7カ国(G7)広島サミットへの尹の参加招待も良いことだ。日米韓首脳会談も予定されている。尹錫悦が日韓関係改善の決意を固く維持していることは幸いなことだ。
訪韓した総理は記者会見で歴史問題につき、「歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」、「私自身、当時、厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに心が痛む思いです」と述べた。野党や一部メディアに不満はあるが、大方前向きに受止められているようだ。今後のシャトル外交が未来志向で行くことを期待したい。