F16投入へのウクライナの期待
F16戦闘機は長射程の攻撃能力を持ち、ウクライナ軍が制空権を確保する作戦に重要な役割を担うと期待されている。戦闘能力は現在ウクライナ軍が主力とする旧ソ連製のミグ29の数倍とされ、ロシアが保有する戦闘機を上回る。ウクライナ軍はこれまで、ロシア軍の戦闘機からの長射程攻撃に悩まされてきたが、F16の投入により事態が大きく変化する可能性がある。
米メディアはF16をめぐり、「ウクライナでの戦況を本質的に変化させうる武器」だと指摘する。欧米諸国はこれまで最新鋭戦車の提供などは発表していたが、それらは長距離の攻撃を仕掛けるには限界があり、さらにロシアの占領地に侵入すれば燃料などの補給面などで大きな困難を伴う。一方で戦闘機は、一度の出撃で複数個所での作戦に従事でき、ロシア領内などから発射されたミサイルの迎撃能力にも優れるためだ。
ウクライナ軍兵士に対する訓練は今後数週間以内に始まるとも報じられており、訓練期間は「数カ月」(サリバン米大統領補佐官)を要する見通しだ。米国のどの同盟国がどれくらいの規模の戦闘機を提供するかも未発表だが、ゼレンスキー大統領は21日に広島市内で行われた会見で、「詳細は答えられないが、相手国と話し合いを進めている」と述べており、すでに訓練の実施や戦闘機の供与規模などをめぐっても詳細な協議が実施されている状況が伺えた。
ゼレンスキー氏はさらに「ロシアが(その威力を)〝実感〟する武器になる」と述べるなど、強い自信をのぞかせる。今回の米国の決定が、戦況に重大なインパクトを与えるのは確実だ。
バイデン米大統領はこれまで、F16の提供に慎重な姿勢を崩さなかった。ただそれでも実際には、提供に踏み切るタイミングを模索していた跡もうかがえる。米軍はすでに3月の時点で、ウクライナ軍パイロット2人を国内の米軍基地に招き、フライトシュミレーターを使ってF16の訓練操縦に必要な期間を見定めようとしていたという。
同盟国からのF16提供も、ゼレンスキー氏の発言からはすでに水面下で進められていた実態がうかがえる。F16提供に向けた準備が整っていたことも踏まえ、最終的な調整を対面で行いたかったゼレンスキー氏が、日本政府に対し訪日を働き掛けていた可能性がありそうだ。
グローバル・サウスの反応
ゼレンスキー氏はさらに、G7サミットへの対面出席を実現させたことで、対ロシア制裁に加わらない南半球の国々との首脳との会談も実現させた。注目されたのはインドのモディ首相との会談だ。
ゼレンスキー氏の訪日が極秘裏に行われた背景のひとつは、ロシアへの制裁に否定的な国々がゼレンスキー氏訪日を事前に知れば、G7サミットへの出席を断る可能性があるためだった。そのような中、ロシアに融和的な国の象徴的存在であるインドのモディ首相は、ゼレンスキー氏との距離を感じさせない老獪な振る舞いを見せた。