モディ氏は会談で「あなたは私たちの誰よりも、戦争の痛みを知っている。インドも、私個人も、この問題の解決に向けてできることはどのようなことでもすると約束する」とゼレンスキー氏に語り掛けた。モディ氏はウクライナに留学していた自国の学生たちと話し合い、「ウクライナがどのような状況に陥ったか、詳細を聞いた」とも述べて、ウクライナを支援する姿勢を示した。モディ氏は会談で「これは、政治、経済の問題ではなく、人道の問題だ」とも語り、政治・経済とは切り離して対応する考えを強調した。
インドは制裁を受けるロシアから膨大な量の原油を輸入し、ロシア経済を事実上支えているうえ、4月末にはロシアとの防衛協力の強化にも合意している。そのようなインドが、ウクライナにどこまで実質的な支援を提供できるかは見通せないが、ウクライナを支える言質をインドのトップからゼレンスキー氏が直接得た意義は少なくない。
ロシア首相は〝中国詣で〟
そのような中、ロシアは同じくG7で批判の目を向けられた中国との連携強化に動き出している。23日にはミシュスチン首相が中国を公式訪問。それに先立つ22日には、パトルシェフ安全保障会議書記がモスクワを訪れた中国共産党幹部と会談し、テロ対策などをめぐり意見を交換した。
G7から名指しで批判された両国が連携を一層深めることは必至だ。ただ、実際にはウクライナに軍事侵攻をしかけているロシアと、台湾や日本などの周辺国を威圧するものの、ロシアのような軍事行動を起こしていない中国とは、置かれる環境が異なる。
G7は首脳声明で「中国に率直に関与し、われわれの懸念を中国に直接表明する」としながらも「中国と建設的かつ安定的」な関係を構築する用意があると呼びかけた。台湾情勢に言及されたことに中国は激しい反応を見せたが、「残酷な侵略戦争」を仕掛けたと指弾されたロシアとは同列には扱われていない。
中国はロシアに対する協力姿勢を強調するが、実際には欧州に売れなくなったロシア産原油を格安で買いたたくなど、その実態は打算的だ。旧ソ連諸国に対するロシアの影響力が弱まる中、中国の習近平国家主席は5月下旬に西安で、旧ソ連諸国である中央アジア5カ国首脳との初の首脳会議を対面で行った。これらの国々への影響力を高めようとする中国の意図は明白だが、ロシアは異論をはさむことすら困難だったに違いない。
そして23日夜にはロシアの首相が北京に駆け付けた。ウクライナ侵攻から抜け出せないロシアの首脳が、実質的に中国の支援を求めて訪中した格好だ。ロシアを取り巻く国際的な状況が、改めて浮き彫りになっている。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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