ただ、実際にそういう方向に事態が進んでいるかと言うと、必ずしもそうではない。
中国は、台湾住民の心をつかんで両岸の平和的統一の素地を作るよりも、台湾を威嚇して圧力を加える方向を選んでおり、台湾側を屈服させようとしていると考えられる。度重なる台湾周辺での軍事演習や台湾領空侵犯などは、その表れであろう。このような強硬策は台湾側の反発を強めるだけであろう。
鄧小平は極めて優れた政治家であり、香港を高度な自治を保障する「一国二制度」を約束することで返還させ、その上で台湾にも「一国二制度」を適用して統一することを考えていたと思う。が、習近平は、香港の「一国二制度」を反中的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」(国安法)で形骸化し、それを大成果と喧伝し、鄧小平の台湾政策の基本をも壊してしまったのではないかと考えられる。香港の現状は、台湾人にとっては恐怖となっているのだろう。
習近平としても、台湾問題の平和的解決を目指すとしているが、そうであれば、それなりの政策展開、特に台湾人の心をつかむような政策を考えるべきだと思われる。
台湾有事は日本有事
安倍晋三元首相が一昨年述べた「台湾有事は日本の有事なり」というのは、その通りであろう。台湾が有事となれば、戦域が沖縄などにも及ばざるをないこと、在日米軍基地が使われることになること、日本へのシーレーン(海上交通路)が直接影響を受けることなどから、「台湾有事は日本の有事」である。日本と台湾との結び付きからも、台湾にいる日本人数は、アフガニスタンやスーダンに比べものにならないほど大人数である。
中国側は、このラックマン論説をよく吟味することが望ましい。
なお、台湾問題は台湾人の人権問題でもあり、中国の内政問題という中国の言い分は国連憲章の人権尊重の強調を考えれば、成り立ちがたいと思われる。