4月2日、陸上自衛隊石垣駐屯地の開設式に出席した浜田靖一防衛大臣は、駐屯地開設によって南西諸島における陸自部隊の「空白」を埋める計画が完了し、攻撃に対する抑止力が高まると述べた。
九州南端から台湾に隣接する与那国島までを含む南西諸島においては、従来、陸自の駐屯地は沖縄本島にのみ所在していた。しかし、中国が軍備を急速に拡張し、台湾侵攻などへの警戒感が強まったことなどから、陸自は2016年に与那国島、19年には奄美大島と宮古島、そして本年、石垣島に駐屯地を開設した。
こうした一連の駐屯地開設で、南西諸島における陸自部隊の「空白」を埋めたことは評価できる。しかし、これが中国に対する抑止力の向上に直結するのだろうか。
太平洋への進出を目指す中国軍艦艇
中国が台湾に侵攻する場合に最大の障害となるのは、米軍による来援だ。中国軍がこれに対抗するためには、海・空・ミサイル戦力を西太平洋に展開・投射して米軍の来援を阻止・妨害する必要がある。しかし、中国本土と西太平洋の間に横たわる九州、南西諸島、台湾、フィリピンなどの島嶼によって、中国軍の西太平洋への戦力の展開・投射は影響を受ける。
ここで、中国軍の艦艇に焦点を当て、それらが中国本土から太平洋に進出できるルートを見てみよう。まず、最短ルートは、➀東シナ海から宮古海峡などの南西諸島内の海峡を通るルート、および②南シナ海から台湾とフィリピンの間のルソン海峡を通るルートである。
次に、遠回りとなるが、③南シナ海からフィリピン南部のスールー海およびセレベス海を通るルートもある。また、更に遠回りとなるが、④東シナ海から対馬海峡、日本海を経由して津軽海峡や宗谷海峡を通るルート、あるいは⑤南シナ海からジャワ海を経由して太平洋に出るルートもある。
つまり、➀~⑤のルートで中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害できる態勢を構築できれば、中国に対する抑止力は高まる。ただし、海・空・ミサイル戦力の増強著しい中国軍は、東シナ海および南シナ海を中心とする海空域での海上・航空優勢を握る可能性がある。このため、中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害する役割は、敵の海上・航空優勢下でも残存性が比較的高い「陸上戦力」や「潜水艦」が主として担わざるを得ない。
それではここで、➀~⑤のルートにおける中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害するための自衛隊、台湾軍、フィリピン軍、豪州軍および米軍の「陸上戦力」と「潜水艦」に関わる取り組みを見てみよう。