自衛隊の取り組み
陸自は、➀のルートに立ちふさがる奄美大島、宮古島、石垣島の各駐屯地に射程約200キロメートル(km)と言われる12式地対艦誘導弾を配備している。今後、同誘導弾の能力向上型では射程が約900kmになるとの報道もあり、➀および④ルートでの対艦戦闘能力は高まるであろう。
加えて陸自は、北海道にも地対艦誘導弾を配備しており、④のルートに睨みを利かせている。また、海自も潜水艦を16隻から22隻に増強しており、➀および④のルートで中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害できる能力を高めている。
台湾軍およびフィリピン軍の取り組み
台湾軍は射程約250kmの雄風2型地対艦ミサイル、射程約400kmの雄風3型地対艦ミサイルを保有しており、2029年までに米国から射程約125kmの地上発射型のハープーン対艦ミサイルを導入予定である。また、台湾が建造中の新型潜水艦は、30年以降に8隻の運用が可能になるとの見方もあり、これらによって台湾軍が➀および②のルートを通航する中国軍の艦艇を攻撃できる能力は大きく高まることになる。
一方、フィリピン軍はインドから購入した射程約300kmのブラモス地対艦ミサイルを24年に配備すると報道されており、これは②および③のルートを通航する中国の艦艇にとって脅威となるであろう。
豪州軍の取り組み
豪州陸軍は地対艦ミサイルを24年から調達する計画を進めている。また、同国政府が23年4月に公表した国防戦略の見直しに関する報告書では、陸軍が同国の北部方面において長射程の地対艦攻撃力を強化することが提唱されている。こうした動きは、⑤のルートでの中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害する可能性を示唆している。
また、海軍は2030年代に米国から攻撃型原潜を3隻購入予定であり、その際には⑤のルート以外での対艦攻撃も可能になる。
米軍の取り組み
米軍については、攻撃型原潜が➀~⑤のルートで中国軍艦艇の太平洋への進出を阻止・妨害できる。また米国政府は、フィリピン国内で米軍が使用できる拠点を計9カ所設けることでフィリピン政府と合意しており、それらには②および③のルートに近接する拠点も含まれている。
そして、米海兵隊は22年に地対艦ミサイルを装備する沿岸海兵連隊をハワイに創設し、25年には沖縄に配備する予定である。また、米陸軍も17年には、地対艦ミサイルを含む中・長射程ミサイルを装備するマルチドメイン・タスクフォース(多領域部隊)を米本土に創設している。これらの部隊がフィリピン国内の拠点に展開すれば、➀、②、③、⑤を通航する中国軍艦艇にとって脅威となるだろう。