2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年5月26日

地震と経済政策

 23年2月に起きた地震はエルドアン政権に手痛い打撃となった。初動につまずいたのは否めないし、建設業者との間の不透明な関係も否定しがたい。

 死者5万人以上、家屋を失った者300万人以上とされる大災害にもかかわらず、その復興は今なお遅々として進んでいない。03年、エルドアン氏は、1999年のイズミット地震後の混乱を収拾するとの触れ込みで首相の座に就いたが、20年経ち、その同じ構図が今度はエルドアン氏を襲う。歴史の皮肉以外の何ものでもない。

 しかし、より根本的には経済の壊滅がある。トルコの通貨リラは、この2年、対ドルで6割も減価した。

 消費者物価上昇率は昨年86%にまで達し、現在も40%以上を推移する。かくてトルコ人の食卓に欠かせない玉ねぎが消費者にとり高嶺の花と化した。キロ当たり、1年半前6リラだったものが、今や30リラと5倍に跳ね上がり、このままいけば、100リラも遠くないという。

 野党候補のクルチダルオール氏は元財務官僚だ。この辺りの世情の機微をよく心得ている。

 選挙キャンペーンで、自宅台所で撮影したビデオを盛んに流した。腕まくりした同氏が台所のキッチンに座り、玉ねぎを高々と持ち上げる映像だ。無論、エルドアン氏の経済失政を糾弾しつつ、自分が大統領になれば、庶民の暮らしはずっと良くなるとのアピールに他ならない。

 そもそも、トルコ経済がここまで混迷を極めるようになったのは2010年代半ば頃からだが、エルドアン氏にその責任があることは疑いない。2年間で中央銀行総裁を3人も更迭し、自らの意に沿った金融政策を強要した。

 その政策とは、インフレは金利引き上げにより沈静化できるという、世の経済学の常識に真っ向から挑戦するものだ。それがいかに的外れであるかは、今のインフレ率が証明している。

 リラ下支えのため、中銀にリラ買い、ドル売りを強いた結果、手持ちの外貨準備が底をつき、とうとう不足の額が700億ドルにまで膨らんだ。今、借り入れで何とかしのいでいる。

 それでもリラの下落は前述の通りで、結果、23年1月の段階で、経常収支の赤字幅は100億ドルの大台に達した。エルドアン氏の政策をこのまま続ければ、遠からぬ将来、トルコ経済が破綻に見舞われるだろうことは誰が見ても分かる。

それでもエルドアンが得票数でリード

 一方、エルドアン氏の選挙キャンペーンは、トルコ初の原子力発電所完工式や黒海のガス田発掘式等、巨大プロジェクトの式典でテープカットする自らの姿の映像だ。自分は次々と巨大プロジェクトを実現させている。自分の下でトルコは偉大な国家への道を着実に歩んでいる。この難局に当たり、自分をおいて誰がこの国の舵取りを担えようかとのアピールだ。

 トルコを世界に冠たる偉大な国にする、他の大国と対等にわたりあえる強国にするとの主張はそれなりに有権者へのアピールとなる。ロシアのウラジミール・プーチン大統領やハンガリーのビクトル・オルバーン首相と同じ論理だ。

 「国民を食えるようにする」ことと、「国民に誇り高い気概を持たせる」ことはいつの時代にあっても指導者に求められる要件だ。しかし、今のトルコは何といっても前者優先だろう。食うものも食えなければ気概どころでない。かくて、エルドアン氏はこの20年来初の危機に直面している。

 ところで、トルコ大統領選挙がこれだけ世界の注目を集める中、事前の世論調査はこぞってクルチダルオール氏が僅差でリードと報じていた。14日の結果は、クルチダルオール氏のリードどころか、エルドアン氏に5ポイント弱も離されている。何があったのか。


新着記事

»もっと見る