すでに核の抑止力が現実的に必要
第三の核軍縮・不拡散は、以上二つの議題に輪をかけたような難問だ。岸田首相は原爆資料館本館の訪問を切望したが、本館まで行けるか、入口の東館で終わるか、調整は難航した。特に米国は、国内に原爆投下が戦争終結を早めたとの見方が強く、原爆を一方的な悪とは見ていない。
そもそも核軍縮・廃絶に、理想として反対する者はいないが、現実にこれを進めるのは至難だ。世界には、核を手放そうとしない国がある。
もしそれらが核使用に及ぼうとする時、世界はどうやってこれを押しとどめられるか。それは決して机上の空論ではない。現在、核使用を巡る垣根は、かつてないほど低くなっている。
ウクライナでプーチン大統領が核のボタンに手をかける可能性は、かつてないほど高まっている。プーチン大統領とて、核に手を伸ばせばどうなるか分からないわけではない。問題は、核に頼らざるを得なくなる事態が起こるのではないか、ということだ。
ロシアにとり、戦況が不利に展開していけば、国内の反プーチン機運は高まっていこう。もし、政権の危機にまで至った時、プーチン氏が核使用を思いとどまるとの保証はどこにもない。プーチン氏が生き残りをかけ一か八かの勝負に出ることは十分考えられる。それは戦略核でなく、局所的な戦術核に止まるかもしれないが、一度核が使用されてしまえば、核を巡る垣根はないも同然になる。
それでも、核使用を押しとどめるものがあるとすれば、それは、核の抑止力以外にない。つまり、今、核の垣根がこれまでになく低くなっているが、その時こそ核の抑止力が必要なのだ。この議論には説得力がある。刀狩りをし、核を国際機関にでも一元管理させれば話は別だが、それができないのが現実なのだ。市中に刀は出回っている。
政治ショーから筋書きのないドラマに
現下の国際情勢が抱える3つの問題を主要議題に据え、21日、首脳らは3日間の討議を終えた。G7首脳宣言、ウクライナに関するG7首脳宣言、核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン等の成果文書が採択され、G7首脳による国際秩序維持に向けた断固たる決意が表明された。核軍縮に関しても、各国首脳が約40分間、原爆資料館訪問を終えた後発出された広島ビジョンには十分な重みがある。
サミットは一大政治ショーだ。事前に筋書きが整えられ、首脳はサミットという舞台で役者さながらその筋書きに沿って演じていく。観客席にいるのは世界だ。
G7首脳は世界に向けメッセージを訴えかける。事前の筋書きなしにこれだけの文書をたった3日でまとめられるわけがなく、全ては予定調和だ。ところが、今回、誰もが予想しない大きなサプライズがあった。ゼレンスキー大統領の出席だ。
3月の岸田首相のウクライナ訪問の時、首相からゼレンスキー大統領にサミット出席の打診をした。無論、戦争当事国の首脳に戦場を何日も空けてくれといえるわけもない。要請はオンラインでの出席だ。ところがその後、ウクライナ側から対面の出席希望が伝えられた。
ゼレンスキー大統領は、サミット前、伊仏独英の各国を相次いで訪問している。おそらくその間にサミット出席の話が出た。
ウクライナにとり、G7による結束した支持が戦争を遂行する上で必須の条件だ。「ウクライナの後ろにはG7がついている」。そのメッセージを打ち出すには対面の方がいい。ウクライナはそう判断した。