これほど「言葉」は人間社会において大きな力を持っているにもかかわらず、その有効的な使い方に関する教育は、これまでの日本では大きく欠如してきた感がある。識字率はほぼ100%で、読み書きそろばんに代表される基本的な教育はすばらしい効果を上げている。しかし、人と議論しながら、問題解決を図る対話力を養う教育はほとんどなされてきていない。
近年ようやくアクティブ・ラーニングや探究という言葉が教育の現場でも聞かれるようになり、グループディスカッションの時間が取り入れられるようになってきたが、子どもたちはそもそも話し合いの仕方を学んでおらず、各人の資質に任せられているのが現状だ。
時代を生き抜く「正解を見つける力」
筆者はこのような状況を以前から憂い、議論しながら学ぶリベラルアーツ教育の重要性を訴えてきた。そして実際に10年ほど前から、大学などを中心として「リーダーシップ基礎」教育に取り組んできた。
「傾聴力」、「対話力」、「交渉力」、「説得力」の4つをリーダーシップの「基礎」力と位置づけ、誰でも学べばその力を身につけられるよう体系化し、その論理を説いている。さらに、模擬会議や模擬交渉を通じて実践的な力として定着を図る。
手前味噌ながら、この一連の流れでリーダーシップ基礎を学んだ受講生たちの変化の大きさには目を見張るものがある。修了後は驚くほど高いコミュニケーションスキルと柔軟な思考力を身につけて社会に出て活躍しており、この混沌とした時代に対応し、たくましく生き抜いていく人材を輩出していると自負している。
冒頭で触れたように、AIを使いこなす上でも、豊かな言葉のやりとりでAIと対話し正解を導く能力が欠かせない。コロナパンデミックという現象の中で私たちは、いかに社会は先行きが不透明であるかという現実を突き付けられ、常識が覆される革命的な経験を得た。正解は1つではなく、自分で考え、解をつかんでいかなければならないことを痛感させられた。
さらにデジタルの進化もあいまって驚異的な変化に見舞われる社会の中で、リーダーシップ基礎力を構成する4要素は、まさにAIで置き換えることのできない人間固有の能動的な力であり、それこそが、新しい時代を創造し生き抜いていく根源的な力であると言えるだろう。日本の国力回復のためにも、これらを早くから身につけさせるべく、より一層のリベラルアーツ教育の普及が期待される。