まずは上の画像をご覧いただきたい。これは「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」というAIを使い、小誌記者が制作したものだ。同AIに英語で「新幹線車内から見た富士山の景色」と入力し、何度か出力を繰り返した。大きな窓や車体カラーなど新幹線らしからぬ部分もあるが、キーワードを増やしたりすれば望むイメージに近づけることができる。水彩画風など、作風も指定可能だ。
2022年夏、このステーブル・ディフュージョンや「Midjourney(ミッドジャーニー)」など、キーワードを入力すればそれに沿った画像を出力する「画像生成AI」が、相次いで一般向けに公開された。米ブルームバーグ通信によれば、22年10月時点でのステーブル・ディフュージョンの1日あたりの利用者数は1000万人に上るとされる。
これまでの画像生成AIは研究開発用途に限られ、一般公開はされてこなかった。だがこれらは一般人が使用可能なことに加え、ステーブル・ディフュージョンに至ってはオープンソース化され、これを組み込んだ派生サービスも数多くリリースされている。「画像生成AI元年」とでも呼ぶべき状況だ。研究開発に特化したオムロンの子会社「オムロンサイニックエックス」(東京都文京区)の牛久祥孝研究員は、現在の状況を「絵画しかなかった19世紀に写真が発明されたことに匹敵する革命だ」と表現する。
一方、こうしたテクノロジーとの付き合い方を問われる事態も生じている。22年8月に米国で行われた美術品評会では、ミッドジャーニーが出力した画像を手直しした絵画が1位を獲得し議論を呼んだ。9月に静岡県が台風15号による水害に見舞われた際には、ステーブル・ディフュージョンにより作成された水害現場のフェイク画像(左)がSNSに投稿、拡散された。AIを教育するデータとして何億枚という画像を使用していることから、その著作権侵害を憂慮する声もある。
STORIA法律事務所(神戸市)の柿沼太一弁護士は「静岡のフェイク画像の件でも現行法の下では犯罪として立件するのは難しいだろう。また国内法でも米国法でも、AI開発のために他人の著作物を勝手に使用したとしても基本的には問題はない。技術の善悪ではなく、人間の使い方が問われていくのではないか」と指摘する。