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2022年3月4日

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茂木陽一 (もぎ・よういち)

プロ釣り師

1954年生まれ。90年代からプロの釣り師として活躍し、世界113カ国の海を巡る。現在は釣具店を運営するグローウッズ(神奈川県横浜市)の代表取締役。一般社団法人日本スポーツフィッシング協会など複数の釣り団体を創設。

 

 日本の海で衰退しているのは漁業だけではなく、遊漁(釣り)も同様である。1998年のピークには約2020万人もいた釣り人が、2020年には約550万人まで減少している。その原因は多岐にわたるが、水産資源の減少により「釣れなくなった」ことが大きな理由として存在するのは確実だろう。

 たとえば釣りの代表格であるクロマグロは、資源量の減少を受けて、先駆けて個別漁獲割当(IQ)が実施されている。その影響もあり、2021年6月に30㌔グラム以下のクロマグロは採捕禁止になり、同年8月には日本全国でサイズを問わず釣りが禁止されている。

 水産庁によると、禁止の理由は「資源管理の実効性を確保するため」。だが現状の漁業者によるクロマグロ漁は、30㌔グラム以下の幼魚だけでなく、産卵期のマグロまで漁獲している。このような状況下で釣りだけを禁止する合理性は見当たらない。漁業者も釣り人も力を合わせ、科学的根拠に基づき資源管理を行い、魚を増やしていく必要がある。

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 もちろん、釣り人側にも改革は必要である。現状の釣りは、前述のクロマグロの例などを除けば規制が一切なく、いわば原始時代から実質何も変わっていないと言えるのだ。しかも、神奈川県のマダイの場合、釣りによって獲られる量が漁業の1.3~3倍に至っているようなケースもある。

 この点はカナダや米国などの事例が参考になる。これらの国では魚種ごとに細かく規則が定められており、サイズリミット(体長制限)に満たなかったり、バッグリミット(匹数制限)を超えたりした魚は、全て海へ生きたままリリースしなければならない。

 カナダ東海岸のプリンスエドワードアイランド州のクロマグロに至っては、そもそも釣り人による水揚げが認められておらず、海から引き揚げることなく全てリリースされている。ファイト(魚が釣り針にかかってから釣り上げるまでの魚との格闘)の回数や時間、釣り糸の太さ、釣り針は生分解性のものを使うことなど、リリース時のクロマグロの生存確率を上げるためのルールが数多くある。キャッチ・アンド・リリース時の死亡率を5.6%として計算し、漁獲可能量(TAC)から釣り人向けに枠が設定されている。

 また、これらの規制を守らせるために、厳しい監視体制が敷かれている。釣果は24時間以内に当局に報告しなければならないし、海上では沿岸警備隊などにより厳重に監視されている。当局の監視艇やゴムボートが頻繁に現れ、規則を守っているかどうか臨時検査も行われる。船内には監視カメラが設置され、オブザーバーが乗船することもあるのだ。

 これらの厳しい規則は米国でも基本的には同一だ。太平洋に面する西海岸では、適切な資源管理によりクロマグロの資源状態が良好なため、バッグリミットは1人につき1日2匹までと定められ、18年の釣りによる漁獲量は484㌧を記録している。21年に日本でクロマグロの釣りが禁止された際、水産庁が年間の釣り人による漁獲量として考えていた枠はたった20㌧だった。そもそもの管理方法とそれに伴う資源状態が、同じ太平洋でも日米では雲泥の差があるのだ。

 さらに、米国では釣り人そのものがライセンス制である。このような厳しい規制の中でも、むしろ釣り人の人口は右肩上がりで、米国におけるフィッシングライセンス人口は19年には約4041万人に達し、米国内有数のレジャースポーツとなっている。その理由は何よりも、規則などの水産資源管理によって、資源量が良好なレベルで維持されているからだろう。

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