一方で、日本の企業は内部留保で過大に現預金を積み上げているのだから、減税よりもこれを使わせる政策が大事だという議論もある。確かに、日本の企業(非金融法人)は13年の3月末で235兆円もの現金・預金を持っている。もちろん、銀行等からの借入が407兆円、社債等の借入が84兆円で合計491兆円の借入があるのだが(日本銀行「資金循環統計」13年6月19日)、それにしても大きすぎるという気はする。4910万円の住宅ローンを抱えている人が2350万円の現預金を持っていることはないと思うからだ。
企業はお金を借りて投資をすることが仕事なのだから、手元の現預金を使わせることが肝心で、使わないなら配当で株主に還元すべきだという議論になる。しかし、何が起きるか分からない世界では、企業が現金を持っていたいと思うのは当然だ。財務状況が盤石であったパナソニックやシャープも、あっという間に危機に陥った。パナソニックは、かつてはお金がありすぎて松下銀行と言われていたのにである。
内部留保積み上げる 企業の心理
もちろん、両社が危機に陥ったのは経営戦略のミスが大きいのだろうが、リーマン・ショックで需要が激減する、120円だった円レートがいきなり80円を割るなどの変化に対応するのは難しい。もちろん、円レートがたびたび高騰したのは、世界の先進国が2%のインフレ率を目標としているときに、日本だけがデフレ政策を採ってきたからである。新しい日銀は他の先進国と同じ2%のインフレ率目標を採用したので、理屈の上では、今後は為替レートの高騰がなくなるはずであるが、本当にそうなるのか、実績がないのだから企業は信用しないだろう。そうすると、思わぬ変化に備えて現預金を持とうとするのは当然である。
また、現預金を積み上げているのは、日本の企業だけではない。同じ期に、アメリカの企業は現預金及び預金代替資産を1.4兆ドルもため込んでいる(FRB, Flow of Funds, June 6, 2013)。
本来、投資先のない企業は配当で株主に資金を返すべきだというのが資本主義のルールだが、企業の経営者、従業員の立場から言えばそうではない。需要が激減しても従業員を解雇することは難しい。そうであれば、現預金を積み上げたいと思うのは当然である。
株主は多くの企業の株を持っている。企業がリスクをとって内部留保を投資に回せば、もちろん、失敗する企業もあるだろうが、平均的には成功して株価の平均も上昇する確率が高いだろう。しかし、一企業で働いている従業員と経営者にとってはそうではない。