失敗し、会社が破綻すれば職を失う。今と同じ給料で雇ってくれる会社はまずない。客観的に見れば今までがもらいすぎなのだとしても、そう達観できる人間は多くはない。そもそも、労働市場が労働の質を完璧に評価し、労働の質が同じなら、いつでもどこでも同じ給与を支払ってくれる世界などありはしない。だから、アメリカの企業も内部留保をため込んでいる。
経営者は資本家の代理人だというのがグローバルスタンダードと言われるが、善悪は問わず、経営者は労働者の親分であるというのが日本のスタンダードである。親分は子分に命令を下すが、子分の面倒も見てこその親分である。そう簡単に首は切れない。アメリカだって同じなのだ。
株式市場が現預金をため込んでいる企業に買収圧力をかければ企業は配当を払うなり、M&Aを仕掛けるなり、大胆な投資をするなりするかもしれない。しかし、圧力をかけられて急いでM&Aをしてうまくいくのだろうか。
日本の企業でM&Aがうまくいったという事例をあまり知らない。バブルの時の買収で成功事例がほとんどないことは多くの人が記憶しているだろうが、その後もあまりないようだ。そして実は、アメリカでもあまり成功していない。アグラワル、ジャッフェ、マンデルカー3人の教授の論文によると、50億ドル以上の131の買収案件を調べた結果、買収企業の株価は1年後には71%の案件で下落しているという(“The Post-Merger Performance”, The Journal of Finance, Sep 1992)。
結局のところ民間投資を盛んにするためには、大胆な規制緩和で企業の自由を拡大する、法人税と所得税を減税して儲かったときの取り分を増やす、企業の努力ではどうしようもないマクロ的な経済環境を安定させるぐらいのことしかできないのではないか。
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