アベノミクスの第3の矢は、成長戦略だが、ただの成長戦略ではなくて、「民間投資を喚起する」という枕詞がついている。成長戦略は中身が明らかでないという批判がついて回ったが、政府は6月14日、「日本再興戦略─JAPAN is BACK─」を閣議決定し、その詳細を明らかにした。
個別的、一時的な 投資優遇は不要
その中で、3年間で民間設備投資を70兆円に回復させる目標を示した(2012年度は63兆円)。目標達成のため、投資促進税制、研究開発税制の拡充、先端設備投資促進のための補助金などを活用するという。しかし、このような個別的な投資優遇策は望ましくない。どのような投資が必要かは企業だけが知っており、政府には分からない。かつ、特定の税優遇策や補助金は、一時的なものになりやすく、投資の無用な変動を引き起こしかねない。
穿った見方をすれば、この目標値は、政府が本気でないことを示すのかもしれない。3年間で63兆円から70兆円というと、年率3.6%に過ぎない。09年度から12年度までで、名目GCPの伸びが低いこともあるが、民間投資の伸び率はその10倍以上だった。後述するように名目GDPの3%成長が前提とされるなかでは、これはかなり低い目標だ。
もっと言えば、「日本再興戦略」の目標が、名目の国民総所得(GNI)成長率3%とされていることにも違和感がある。GNIはGDPに海外からの所得の純受け取りを足したものなのでGDPより大きい。したがって、成長率も高くなる。しかし、成長率の違いは、過去10年間の平均では0.2%しかない。この程度の違いしかないなら、わざわざ耳慣れない言葉を使う必要はないはずだが、0.2%でも嵩上げして目標達成を楽にしようという役人的思考が透けて見える。
アベノミクスの第1の矢である大胆な金融緩和で、インフレ率は2%に引き上げるとしている。3(名目GNI成長率)−0.2(GNIとGDPの差)−2(物価上昇率)=0.8で、日本再興戦略が目指す実質GDP成長率は0.8%となる。物価目標は消費者物価で、こちらはGDPデフレータだから違うというのかもしれないが、デフレでない時期では差は0.5%以下しかない。これを加味したとしても0.8+0.5で1.3%。これでは成長戦略の真剣さが疑われかねない。