上記の論説は、なぜ世論調査が間違えたのかを問うている。終わってしまえば色々言えるだろうが、大統領選挙の投票結果の分布を見ると、クルチダルオールは地中海沿岸を含む都市部で勝っているが(もっともイスタンブールやアンカラでの勝利は僅差である)、地方ではエルドアンが圧倒的に勝っている。世論調査は都市部の声を過大に反映し、地方に根強い宗教右派の動向を見失っていたのではないかと思われる。
1回目の結果を受けて、勝負はほぼ決まりとの空気が一気に広まっていた。5月28日に行われた決選投票では、エルドアンが52.16%、クルチダルオールが47.84%と、エルドアンが4ポイントあまりリードした。クルチダルオールは「絶望するな。われわれは耐え、共にこの選挙をものにする」と鼓舞したが、選挙戦のモメンタムは維持できなかった。
決選投票では、1回目の投票で予想外の5%超を獲得した第三の候補シナン・オアンの票がいずれの候補に流れるかが注目されていた。彼は極右の世俗主義であり、いずれとも相容れないところがあった。彼はエルドアンにはナンセンスな経済政策の放棄を要求し、クルチダルオールにはクルド系政党HDPと手を切ることを要求している。クルチダルオールは極右の主張に擦り寄り厳しい移民政策を打ち出すなどしたが、決選投票で逆転するには不十分だった。
トルコの民主主義は強靭性を示したが……
上記の論説は、野党陣営は敗れたが、野党陣営とトルコ社会はトルコの民主主義は未だ生きていることを示唆するに十分な強靭性を発揮したと述べている。
確かに、トルコ社会は民主主義を諦めてはいない。投票率は88%を超える高率であったようである。選挙は政権に対する主たる不満の表明のチャンネルとして機能したとは言えるのであろう。深刻な選挙の不正や妨害は報告されていない。
しかし、公平な土俵で戦われた選挙とは言えない面もある。いずれにしても、民主主義のルールを脅かすエルドアンの強権政治を追放するまたとない機会を逸したことはトルコのために惜しまれると言うべきであろう。