2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月5日

 トルコの大統領選挙は、事前には野党候補のクルチダルオールが現職のエルドアンに対して優勢であると分析されていたが、5月14日の1回目の投票ではエルドアンが過半数には満たないもののリードし、5月28日の決選投票では約4%の差をつけて勝利した。

(Chris McGrath / スタッフ/gettyimages)

 ベルギーのシンクタンク「カーネギー・ヨーロッパ」のディミタル・ベチェフ客員研究員による5月16日付の英フィナンシャルタイムズ紙掲載の論説‘Erdoğan’s political momentum puts Turkish democracy to the test’は、1回目の投票結果を分析するとともに、エルドアン政権の継続の下でトルコの民主主義の試練が続くと述べている。要旨は次の通り。

 なぜ世論調査は間違えたのか?選挙の前のほとんどの世論調査でエルドアンは遅れを取っていた。大地震に対するパッとしない対応と経済失政がエルドアンに対する支持を損なうと予想されていた。

 クルチダルオールは一回目の投票で首位に立つ、あるいは50%の敷居を超えて勝ちを決めるとすら予想されていた。実際には、エルドアンが49.5%の票を獲得し、クルチダルオールに4ポイントを超える差をつけた。そればかりか、公正発展党(AKP)を中心とする与党連合が議会の過半数を維持した。

 保守的な有権者の一部がAKPを見限ったために、エルドアンは一回目の投票では勝利できなかったが、世論調査に現れない隠れた支持があった。

 トルコのナショナリズムにも関係がある。クルチダルオールが勝つためにはクルド系の国民民主党(HDP)の支持を必要とすることは明らかだった。それゆえ、彼は(非合法組織である)クルド労働者党(PKK)に繋がる勢力の側に寝返ったと描かれ易くなった。その結果、エルドアンあるいは第3の候補シナン・オアン(ナショナリストで対クルド強硬派の)のいずれかに票が流れた。

 エルドアンの新たな任期は容易ではない。AKPは、経済危機は何とか凌げると結論づけるかもしれない。湾岸諸国からの投資と対ロシア輸出の伸長は安心材料である。しかし、トルコ・リラは脆弱なままである。制御不能のインフレは生活水準を蝕み続け、不満を高めるであろう。高水準のエネルギー価格と地震からの再建は財政に重圧を加えるであろう。

 ロシアおよびウクライナ双方と強い関係を有するエルドアンが現職にとどまることは、プーチンとゼレンスキー両人にとり幸いである。スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟については若干のやり取りがあろうが、7月のNATO首脳会議の前に了解に達することは恐らく可能である。

 エルドアンの勝利は、必ずしも欧州連合(EU)との摩擦を意味しない。過去の選挙とは対照的に、今回は、ブリュッセルやEU主要国に対する怒りのレトリックの暴発は見られなかった。トルコはEUからの資金の流入に依存することになろう。EUはエルドアンが欧州への難民の流入を止め置いてくれること、そしてウクライナの紛争における調停役を担うことを当てにすることとなろう。

 エルドアンの下における更なる5年間はトルコにおける民主主義のルールを危険に晒し、西側との関係を緊張させるかも知れない。しかし、長期的には、すべてが失われた訳ではない。野党陣営とトルコ社会はトルコの民主主義が未だ生きていることを示唆するに十分な強靭性を発揮した。

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 今回のトルコの選挙は、野党陣営にとっては予想しなかった最悪の結果であったであろう。選挙前にはほとんどの世論調査がクルチダルオールの優勢を伝えていたにもかかわらず、1回目の投票は、蓋を開ければ、得票率はエルドアンが49.50%、クルチダルオールが44.89%で、エルドアンが約4.5ポイント上回った。同時に行われた議会選挙でも、AKPと極右の民族主義者行動党(MHP)の与党連合が過半数を維持することになった。


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