内戦での化学兵器使用などで世界から締め出されてきたシリアのアサド政権はトルコ・シリア大地震を国際的な孤立脱却の機会に利用している。地震対策の無策ぶりを批判されているトルコのエルドアン大統領も難民の送還やクルド人問題でシリアの協力が必要なことから急接近。資格停止されたシリアの「アラブ連盟」復帰も現実味を帯びてきた。アサド大統領の深謀遠慮を探った。
反政府勢力の被災はアサド政権に好都合
2月18日の時点で大地震の死者は約4万6000人を超えたが、行方不明者が膨大な数に上ることから犠牲者は最終的に10万人に達するとの見方もある。特に懸念されているのは支援が届かないシリアの被害だ。被災地の中心は内戦での反政府勢力の「最後の牙城」である北西部イドリブ県だ。
トルコ国境に近い同県には450万人ほどが居住していたが、今のところ死者は約6000人と伝えられている。政府軍やロシア軍による度重なる砲撃で多くの建物が弱体化していたところに地震が追い打ちを掛けた。国連などの援助は地震発生から4日目になってやっと国境から搬入され始めたが、被災地の1割にも届いていない状況という。
反政府勢力はスンニ派イスラム教徒が中心で、その中核組織は「シリア解放委員会」(旧ヌスラ戦線)。かつては国際テロ組織アルカイダのシリア分派だった。エルドアン政権はこれら反政府勢力に支援を与えて取り込み、トルコ国境の安全保障を支える〝駒〟としている。
今回の地震は反政府勢力にも大きな損害をもたらしたのは確実だ。反政府勢力が地震で打撃を受けたのはアサド政権にとっては好都合だ。アサド政権は2011年に内戦がぼっ発した後、反政府勢力に押し込まれて政権崩壊の瀬戸際までいった。
そこを救ったのがロシアとイランだった。イランは革命防衛隊を、ロシアは空軍を送って反政府勢力を撃退、イドリブ県に追い詰めた。