2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月10日

rudall30/Gettyimages

 英エコノミスト誌1月14日号の解説記事が、トルコのクルド系最大政党HDP(国民民主党)が解党を強いられるかも知れない危機にあることを紹介し、6月の議会選挙・大統領選挙との関連における意味合いを論じている。要旨は次の通り。

 トルコのクルド系最大政党HDPはその資金を使うことを禁じられた。同党所属の各地の市長は、職を解かれ、中央政府によって任命された市長代理に置き換えられている。同党の指導者だったセラハッティン・デミルタシュは2016年以来投獄されている。さらには、6月に予定される議会選挙・大統領選挙を前にして、HDPの議員は追放され、党は解党させられそうな様相である。

 クルド系の政党としてHDPは2015年の議会選挙で初めて所要の最低得票率10%を突破して議席を獲得、クルド系だけでなくリベラルなトルコ人をも取り込んで、エルドアン大統領の与党AKP(公正発展党)の単独多数を阻止することとなり、AKPは2002年に政権に就いて以降初めて連立政権を組むこととなった。

 それ以来、HDPは訴追と戦うことに多くの時間を費やして来た。エルドアンは、HDPには非合法の分離主義民兵グループPKK(クルド労働者党)との関係があると非難している。1月初め、トルコの憲法裁判所は「PKKとの有機的な関係」に言及して、HDPの政党補助金の受け取り口座である銀行口座の凍結を命じた。検察は憲法裁判所において、HDPはPKKの「人材募集機関」として行動していると非難したり(有罪となれば、彼らは5年間選挙による公職に就くことを禁じられる)、HDPの解党を要求したりしている。

 エルドアンと彼の支持者はこのような裁判は純粋に司法的なもので政治的介入の余地はないと主張するが、反対派に言わせれば、2016年のエルドアンに対するクーデタ未遂事件とこれに続く公的部門の巨大な粛清以来、裁判所はほぼ完全に乗っ取られている。

 裁判官と検察官の4分の1以上が解任・更迭され、上級裁判所は徐々に忠実な政権支持者で埋められた。「それは憲法裁判所ではなく、AKP裁判所なのだ」とも言われる。

 HDPが解党させられた場合、ナショナリスト(したがって反クルド)の党を一つ含む野党6党の連合は、行き場を失ったHDP支持の有権者の票を獲得するのに苦労するかも知れない。しかし、クルドの有権者がAKPは汚れていると見ていることを考えると、HDPの解党はAKPではなく野党連合により有利に働くであろう。

 実は、HDPが大統領選挙に残っていることが、エルドアンにとっていくらかの利益となり得る。HDPが野党連合とは別に独自の大統領候補を立てれば、野党票を分裂させ、決選投票に持ち込まれることになり得る。調査機関Turkey Reportの創業者Can Selcukiは「これは交渉の始まりである。HDPは、『われわれを解散させるな。そうすればわれわれは誰かを出馬させる』と主張するだろう」と言っている。

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 2021年以来、テロとの関係を理由にHDPの解党を求める検察の訴えが憲法裁判所で審理されて来たが、上記の記事の通り、この事案の一環として、1月6日、HDPの銀行口座は憲法裁判所によって凍結され、これによってHDPは政党補助金を使用できないこととなった。検察が、政党補助金がテロ組織に流れていると主張して口座の凍結を求めたのに対し、憲法裁判所がこれに応じたものである。


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