急接近するエルドアンの狙い
こうしたアサド氏に急接近を図っていたのがエルドアン大統領だ。大統領は1月初め、アサド氏との首脳会談に言及し、関係改善に意欲を見せた。両国はロシアの仲介で昨年末、モスクワで国防相会談を行っていたが、エルドアン大統領は近く外相会談を開き、その後に首脳会談を開催すると具体的な見通しまで示していた。
トルコとシリアは内戦以来、断交状態にあるが、エルドアン大統領はなぜ今、関係改善に舵を切ろうとしているのだろうか。エルドアン氏の戦略的な狙いは2つ指摘できるだろう。第1に、トルコが抱える約400万人のシリア難民を早急に送還する必要に迫られているからだ。
その理由はトルコの経済低迷が背景にある。トルコはインフレ、通貨暴落など経済が悪化し、難民を国内に収容し続ける余裕がなくなっている上、愛国主義の高まりで反難民感情が増大しているという事情がある。エルドアン大統領はすでに、「難民送還計画」に基づいてシリア領内に数万戸の難民住宅を建設しており、最終的にはここに100万人を収容したい考えだ。
第2に、トルコ国境沿いのシリア北東部を支配するクルド人の掃討問題がある。エルドアン氏はトルコ国内の反体制クルド人組織と敵対してきたが、シリアのクルド人も一体と見なしており、シリアに侵攻して一掃する構想を描いてきた。これにはアサド政権の協力が不可欠になる。
この2つがエルドアン大統領のシリア接近の理由だ。だが、米国は現在もシリアのクルド人勢力と連携してIS壊滅作戦を続行しており、トルコ軍のシリア侵攻には反対だ。エルドアン大統領の思惑通りに運ぶかは予断を許さない。
地震の被害拡大はエルドアン政権が建物の建築審査に手心を加えてきた結果の「人災」という批判が強まっており、このままでは5月に迫る大統領選挙での当選は危うい。このため大統領が国民の怒りを解消するべく大胆な決断や行動に打って出るとの憶測も根強い。トルコ情勢からますます目が離せなくなった。