そこには、過剰な演技も激烈な言葉もない。日本映画の戦後の巨匠たちやフランス、イタリア映画の心にしみ透るような作品の系譜につらなる。
この作品がテレビドラマ初主演となる、満島ひかりは、小春が難病の診断を告知されるとき、カメラは医師の表情を正面からとらえて、小春はその背が画面に映るだけである。
自宅のアパートに戻った小春が、こどもたちを寝かしつけたあと、風呂とトイレが一体となった一角で膝をかかえてすすり泣く。
明らかになる「不幸」の真実
小春の家族だけではなく、母の紗干の家族も「それぞれ」の不幸を背負っていることが明らかになっていく。そして、その不幸もまた、静かな演技とセリフによって描かれていくのである。
紗干は娘の栞と百貨店に買い物に行ったとき、ふと立ち寄った家電売り場で小春の家族のためにクーラーを購入して取り付けを依頼する。
紗干と栞のふたりの行動とやり取りと、小春の家族のシーンが交互に織りなされて、ドラマは「不幸」の真実を明らかにしながら進行する。
クーラーの取り付けはできなかった。小春のアパートが古くて壁の強度が足りなかったのである。
紗干が栞の気晴らしに誘ったカラオケ店で、小春の不幸の原因を作ったのが、栞であることが彼女の告白からわかる。
高校時代にいじめから逃れようと、仲間のグループに入った栞は、電車のなかで男の手をつかんで「痴漢」と叫んで、無実の男性を仲間とともに恐喝していた。
小春の夫の信が、母の紗干のもとを訪ねてきて、幸せな生活を報告にきた後を追って、電車のなかで信の手をつかむ。乗客たちに囲まれて途中の駅で降ろされた信は、殴られ、押し倒され、蹴り飛ばされる。その時、手に持っていた梨が転がり落ちて、線路に落ちようとしていたのを追いかけて、信は電車にひかれたのであった。