紗干の期待にこたえようとして、美術大学を目指している栞であったが、才能の限界にきづいていた。中学校、高校時代にいじめにあっていたことを紗干に隠していたことも、告白から明らかになる。紗干が信に与えた梨は、栞にとって、幸福を象徴するようにみえたのである。自らの不幸に引き比べて、その絶望は深かった。
社会派ドラマの主旋律となっている
キャストの演技
脚本と演出は、どこまでも静謐(せいひつ)を保って乱れない。
自宅に帰った紗干と栞がからみ合うシーンは、母娘の葛藤と、母の愛情の深さを静かに描いていく。
紗干は、栞の部屋の壁に貼られたデッサンを次々にはずしていく。ベッドに毛布をかぶって「もう死にたい、死にたい」という栞に対して、紗干は手荒に毛布を引きはがすのであった。
田中裕子と小林薫の夫婦役のみならず、小春役の満島ひかりと栞役の二階堂ふみの演技は、静かにしみ透る社会派ドラマの主旋律となっている。 (敬称略)
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