2024年5月27日(月)

Wedge REPORT

2023年6月9日

林業経営が庄三郎に与えた影響とは?

 なぜ、ここまで教育に熱心だったのだろうか。とくに西洋式の教育、そして女子教育への力の入れ方は、時代背景を考えると尋常ではない。まだまだ西洋に対する忌避感が根強く、また女子に教育は不要とする意見が強かった時代なのだ。

 庄三郎自身は、6歳で家を出されて15歳まで、読書や算盤、諸礼、謡曲、生け花など習い事をしたと語っている。しかし折々の講演で「私はあまり学問をしなかったので、一向に道理がわからない」と述べている。おそらく自由民権運動などを通じて多くの政治家や実業家、学者と交流を行う中で、自らの浅学に気付いたのではないか。

 しかも大きな変革期である。新しい社会を築くためには新しい西洋の学問が役立つと感じたのだろう。キリスト教にも非常に好意的だった。

 女子教育に関しては、成瀬が執筆した大学設立をめざす『女子教育』を読んで、「その着眼、その抱負、また教育の主義方針など、すべて一々私の望むところに一致している」と語っている。そして「実に歓喜に堪えなかった」。

 日本女子大における講演では「国民の半分を占める女子の意識を高めないと、国力は伸びない」と述べた。また知識に偏重することなく徳性を磨くことを求め、男女を区別せず日本国民として教育することを望んだ。そこには自由民権運動の名残も感じる。この運動は国会開設という目的は達したものの、やがて過激な暴力事件を繰り返し解体していった。大衆の意識が高まらないと、政治も変わらないと庄三郎は学んだのかもしれない。

 ただ庄三郎が教育に力を入れたのは、国の政治を変えたいなどといった喫緊の課題のためだけとは思えない。もっと深い思想があったように感じる。

 私は、林業における森づくりの経験が影響を与えたのではないかと想像している。木を植えたら後は放置しても勝手に森ができるわけではない。撫育という言葉があるように丁寧な育林を行わねばならない。しかも木を植える土地の地形や地質、気象など条件はすべて違うので、一本一本をよく見て数十年先の森の姿を想像して行うことが肝要だ。そのためには森を見る目を持った人材が必要というのが持論だった。今でも林業家は「森づくりは人づくり」とよく言っている。

 同じように社会や国は、法律や制度さえつくれば完成するわけではなく、深い知識と高い教養を積んだ人材が必要と考えたのではないか。しかも教育の成果はすぐに出るものではなく、遠い将来に実を結ぶ。それは自分が植えたら収穫は子か孫の代と言われる林業と似た感覚ではなかろうか。教育も目先の利を追うのではなく、森を育てるのと同じように何十年何百年先を見据えていた。

 庄三郎の目には、森も国も遠い未来の姿が映っていたのだろう。

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