2024年5月4日(土)

WEDGE REPORT

2023年6月8日

 金建希氏は、裕子夫人との茶会で海外所在文化財の返還について、何の話もしなかったのだろうか。ちなみに、夫人懇談2日目は、リウム美術館で特別展「朝鮮の白磁」を見学している。金建希氏の活動と懇談のシチュエーションから考えて、文化財返還について何の話も出なかったというのは不自然さが否めないが、外務省の公式発表にそのような話は確認できない。

日韓の文化財にまつわる独特な歴史

 そもそも、なぜ日本に多数の韓国文化財が存在するのか。それらが日本の大陸・半島への進出と日韓併合に遡ることは、改めて説明するまでもないだろう。だが、日本から韓国への文化財返還は過去に幾度も行われている。

 連合国最高司令官総司令部(GHQ)は1946年4月、日本が37年(日支事変勃発)以降に占領地で入手したものは全て「略奪された財産」と決定し、文化財を含むそれら財産を中国、英国、オランダへ返還するよう指示した。だが、この指示から、37年以前に日本領となっていた朝鮮は除外された。

 日本から韓国への返還は、65年の日韓基本条約と同時に調印・批准された日韓文化協定に基づき引き渡された、359件1321点の文化財が初めてとなる。ここで〝引渡し〟と表現したのには理由がある。

 日韓基本条約をめぐる交渉で、韓国は「日韓併合以降、日本にもたらされた文化財の多くは不当不正な手段により持ち出された」、日本は「いずれも正当な手続きで購入したか、あるいは寄贈を受けたものであり、返還すべき国際法上の義務はない」と主張したため、返還でも贈与でもなく、折衷案として「引き渡し」という表現で合意されたからだ。

 その後、91年に山口県立山口女子大学が「寺内文庫」の一部を、2005年に靖国神社が「北関大捷碑」を、06年に東京大学が「朝鮮王朝実録」を韓国に引き渡すという、民間レベルでの文化財返還が行われ、10年8月には、菅直人内閣が日韓併合100周年に際して、「日韓関係に関する総理談話」を閣議決定し、翌11年に「朝鮮王室儀軌」が返還された。

 このような経緯を経ながらも、日本には韓国の文化財が未だ9万5622点も所蔵されている。都内の私立美術館に取材した際、同館の学芸員は匿名を条件に苦渋の思いを語った。

 「当館が所蔵している朝鮮半島由来の美術品は、適正な手段により購入・寄贈されたもので、所有権については日韓基本条約で決着済みです。その点は韓国の美術研究者も同じ考えでしたが、菅内閣による朝鮮王室儀軌の返還以降、韓国の美術界ではない研究者や団体から、『朝鮮半島の文化財がないか調査したい』との要求が相次ぐようになりました。当館としては、盗取のおそれがあることや平穏な展示環境を維持できないと考え、文化庁を通じた依頼以外は全て断るようにしています」(私立美術館学芸員)

対馬仏像盗難事件での問題とは?

 残念ながら、この学芸員の憂いはすでに現実のものとなっている。2012年に韓国の窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から「高麗金銅観音菩薩坐像」を盗み出し、韓国に持ち帰った、いわゆる対馬仏像盗難事件だ。

 この仏像は、本来であれば文化財不法輸出入等禁止条約(ユネスコ条約)に基づき直ちに日本に返還されるはずだったが、韓国の浮石寺が、「14世紀に倭寇が略奪して持ち去ったことは明らか」と主張すると、13年に韓国の地裁が浮石寺による仮処分申請を認め、事実上の返還拒否を決定した。


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