2023年12月8日(金)

WEDGE REPORT

2023年6月8日

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吉永ケンジ (よしなが・けんじ)

ジャーナリスト、セキュリティコンサルタント

防衛省などで30年以上にわたり、対スパイ活動や海外情報収集などHUMIT(人的情報活動)の最前線に従事した元インテリジェンスオフィサー。現在は、安全保障ジャーナリストとして活動しつつ、経済安全保障に関する脅威分析や産業スパイ、営業秘密漏洩、盗聴・盗撮などセキュリティインシデントに関して、企業へのコンサルティングや講演を行う。また、修士(国際情報)、日本国際情報学会に所属し、主に韓国の政軍関係、情報機関、防衛産業をフィールドに学術研究する。著書に監修『わたしたちもみんな子どもだった 戦争が日常だった私たちの体験記』(ハガツサブックス)がある。X(旧Twitter):@yk_seculligence

日本の対応は?

 このような略奪文化財返還の潮流は、文化財がいつ、どのようにして国外に持ち出されたのかを問わず、現在の所蔵国はそもそもの所有国に返還しなければならないというものだ。上述のとおり、韓国はファーストレディの金建希氏が先頭に立って旗を振り、BTSのリーダー、RM氏が21年と22年、国外所在文化財財団に計2億ウォン(約2060万円)を寄付するほど、国民的な関心が高い。

 一方の日本はどうだろうか。10年の日韓併合100周年に際して、日本共産党の吉井英勝衆議院議員(当時)が行った、朝鮮半島から持ち込まれた文化財の所在や点数などの質問に対して、政府は「お答えすることが困難」と回答を避けており、戦前に持ち込まれた文化財の由来や点数などの実態すら明らかにされていない

 韓国や北朝鮮、中国が文化財返還を具体的な外交課題として組み入れてきたとき、果たして、日本政府は適切に対応できるのだろうか。文化財返還が世界的な潮流となった今、政府が誤った対応をとり、世論がそれを後押しすると、日本はいらぬレッテル貼りを受けることになりかねない。そうならぬよう、外務省、文化庁をはじめとした政府の適切な対応を期待したい。

   
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