バイデン政権が、アラブ諸国のシリアとの関係正常化に反対しないと述べたのは、米国は中東から去りつつあるが、だからと言って中東のアラブ諸国との関係をことさらに緊張させたくないという、大人の判断であろう。
シェールオイルを産出する米国は関係なくとも、日本をはじめとする西側諸国はアラブ産油国の原油供給に依存しており、イランの核開発問題をはじめとするイランの覇権主義を阻止するためにアラブ諸国との協力が重要であり、更に、イスラエルの安全保障を考えるならば、米国がアラブ諸国と対立しても良い事はない。
ロウギンは、米国は経済制裁を用いてアラブ諸国のシリア復興支援を阻止するべきであると主張しているが、そんなことは無理であろう。例えば、アラブ産油国が、「米国が経済制裁を課すならば、今後、原油決済を人民元建てにする」と脅かしたり、「西側への原油供給をカットする」と脅したりしたら、困るのは米国である。
また、既にイラン、ロシアで経済制裁を乱発して、米国による経済制裁という「伝家の宝刀」の切れ味は大分鈍っているが、アラブ諸国が従わなければその切れ味はますます鈍ってしまうであろう。
シリアを舞台にしたサウジとイランの綱引き
シリア内戦が、事実上、アサド政権の勝利で決着していることは数年前から分かっていた。今、アサド政権のアラブ連盟への復帰が急速に動いたのは、米国の中東からの撤退が明らかになった事を契機に中東で新たな合従連衡の動きが始まり、その中でサウジが、ずっと不在であったアラブ世界の盟主となると決意したことが大きいであろう。
そもそも、サウジは、シリア内戦でイスラム教スンニ派の反政府勢力を支援してきたが、その立場を180度変更したことは、若きムハンマド皇太子の強いリーダーシップに依るところが大きいと思われる。今後、イランとの関係正常化やシリアの復帰のようなサウジの大胆な外交が続くものと思われる。
しかし、シリアのアラブ世界への復帰は、同国を自国の安全保障上の要石と考えているイランにとって面白い訳がなく、今後、シリアを舞台にイランとサウジとの間で綱引きが起きると思われる。その意味でこのサウジの積極外交は、よく考えられた整合性のあるものではない可能性が高く、国際社会は、今後も色々と驚かされるであろう。