歴史の経験
実際にどうであったかを歴史的に見ていこう。図1は、日本と米国の消費者物価上昇率を見たものである。
1971年に円は切り上げられたが、変動相場制に移行したのは73年である。ただし、発足当初は完全な変動相場制ではなく、また、70年代は2度の石油ショックもあった混乱期なので、71年までを固定為替制の時代、80年以降を変動相場制の時代とした方が良いだろう。
50年代、60年代の固定相場制の時代には日本の物価上昇率が米国より高く、80年代以降の変動相場制の時代にはアメリカより低くなっている。
一方、労働生産性の上昇を厳密に図るのは難しい。労働時間当たりの実質国内総生産(GDP)というデータもあるのだが、1950年代までは遡れない。そこで簡単に、1人当たり実質GDPの伸び率を生産性の伸び率と考える。
すると、図2のように、80年代まで日本の生産性上昇率は米国より高かったが、90年以降は米国より低くなった。その後、2010年代に米国に近づいたが、物価上昇率は米国より低いままである。
生産性が伸びると物価が上がるというのは、固定為替制の下で為替を切り上げないように名目賃金を引き上げていた結果である。生産性を上げても物価は上がらない。ただし、生産性を上げるのは良いことであるから、物価がどうであろうと生産性は上げるべきである。
(固定為替制度と自由変動相場制の違いによって労働生産性と物価の関係が異なることについては、上智大学の中里透准教授のご指摘を得たことを感謝する。)