2024年5月7日(火)

Wedge REPORT

2023年4月25日

 今年の春闘では多くのエコノミストの想定を上回る賃上げが実現した。背景には、もちろんインフレ率の上昇と人手不足がある。そのため、「物価も賃金も上がる好循環」「持続的な賃上げと消費拡大の好循環」が今後実現していくとみるエコノミストも増えてきたようだ。

(akiyoko/mapo/gettyimages)

 だが、景気の先行きリスクや日本経済の構造を考えると、そうした見方は楽観的すぎるのではないか。賃上げの持続性には疑問符が付く。

今年は賃上げを後押しする材料が重なった

 連合がまとめた4月11日時点での集計によると定昇込み賃上げ率の加重平均は3.69%、300人未満の中小企業の組合でも3.39%となっている。賃上げ率は実に30年ぶりの高水準(厚生労働省統計では1993年に3.89%)だ。定昇分はほぼ1.8%なので、差し引くと1.5~2%のベースアップが実現したことになる。

 所定内給与はベースアップに連動する。2023年度は脱コロナで経済活動が正常化するので、時間外手当などの所定外給与も増加が見込まれる。特別賞与も夏は高い水準が期待できそうだ。それらをまとめた現金給与総額は高い伸びになる。

 消費者物価上昇率については、食品から食品以外の幅広い分野、サービス分野にまで値上げが広がっているため、物価の影響を除いた実質賃金はまだしばらく低下が続く。だが、エネルギー価格は昨年の5月から反落しており、年後半には消費者物価上昇率も鈍化して、実質賃金も前年比でプラスに転じるのではないかと予想される。

 ただ、今回の賃上げは、いくつもの材料が後押しした格好だ。

 まず、エネルギー、穀物価格の上昇を起点とするインフレが進行したこと。さらに、昨年は急速に進んだ円安と相俟って日本人の賃金が欧米に比べて過去20年低いままに放置されていたことがクローズアップされた。岸田文雄政権の旗振りもあって春闘への社会の関心が急速に高まった。

 企業側もそうした社会の要求に応じる環境にあった。現状の1ドル=134円前後は22年初めからすると18%もの大幅な円安であり、大企業製造業は利益が膨らんで、賃上げに踏み切りやすかった。海外の有力企業と競争するグローバル企業にとっては日本の労働力が相対的に安くなったため、かなりの賃上げ余地ができた。

 他方で、新興国の賃金は上昇している。ユニクロの大幅な賃上げなどが話題になったが、過去に円高が進んだ過程で中国や東南アジアに安い労働力を求めていったことの逆回転として日本回帰が起きているにすぎない。

 また、内需企業もコスト高をある程度、価格に転嫁できた。その背景には、昨年までコロナ対策として屋外の活動制限が行われる一方、定額給付金が支給されたために、家計の貯蓄に余裕ができていたこと、今年は脱コロナの経済正常化で外食やイベント参加、旅行など控えられていたものが一気に回復するペントアップ需要が膨らみ、インフレ下にもかかわらず消費が底堅いことがある。


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