2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2023年4月25日

成長期待が低く、将来不安が強い

 30年以上前の物価も賃金も上昇していた頃とは、日本経済の構造はまったく異なる。当時は3~4%の潜在成長率(内閣府と日銀が試算)を維持し、人々の成長期待も高かった。

 2000年に入ってからは、潜在成長率は1%を下回って推移しておりコロナ前には0.5%を割り込み、企業も家計も成長期待は低い。ちなみに潜在成長率と物価との間には強い正の相関関係があるが、これは成長期待が高ければ、企業は雇用を拡大し賃金は上昇するが、悲観的になれば人的投資にも後ろ向きになるからだ。

 この点、黒田東彦総裁時代の日本銀行で異次元緩和を推進したリフレ派は因果関係を取り違えている。物価が上がりインフレ期待が高まるから消費や投資が増えて成長するというのが彼らの論理だが、成長し成長期待も高まるから消費や投資が増えて物価が上昇するというのが実態だ。日銀が旗を振っても企業が国内投資に慎重だったのはそのためだ。

 日本では終身雇用制という時代に合わなくなってきた制度を温存した結果、賃金は過度に抑制されてきた。労働組合が賃上げよりも雇用の安定を優先するというロジックの下で、低い賃上げ要求しかしてこなかった。賃金が上がらなければ可処分所得は増えず、消費も拡大しないので、今般のようにこれが修正されることは歓迎すべき事だ。

 ただ、「賃上げさえ実現すれば、あとは好循環に向かう」というのは、「2%の物価目標を掲げてデフレ脱却さえすれば、好循環が実現する」というのと同様に単純すぎ、期待どおりにはいかないのではないか。

 高齢化により社会保障費の負担も増えて、若い世代は自分たちの年金にも漠然とした不安を抱えている。昨今の米株投資ブームなどはそうした世相の表われだろう。

 中長期の成長期待が失われたままでは、若い世代は賃上げを一過性としか考えず、消費を増やさない。増え続ける社会保険料の問題をどうするのか、将来の年金支給は持続可能なのか、といった不安への解を示していかないと、消費拡大につながる好循環は成り立たない。

   
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