2024年5月21日(火)

教養としての中東情勢

2023年6月14日

「ゼロサム」ではなく「多面外交」

 こうしたムハンマド皇太子の姿勢に恐れをなしたわけではあるまいが、バイデン政権は今春、対サウジ関係で重大な決定を下したとみられている。バイデン大統領とムハンマド皇太子の個人的に冷たい関係を棚上げにする一方で、「皇太子を懐柔して両国の関係改善を図る」という方針への転換だ。

 ニューヨーク・タイムズはアナリストらの見方として、大統領や側近らは「米国が中国やロシアと競争するつもりなら、強力なパートナー(サウジ)を仲間外れにする余裕はない」という新しい地政学的な現実を受け入れるようになった、と報じている。だが、一部からは皇太子に「屈服」したとの批判もある。

 ここ数カ月、この方針に沿って、米高官が相次いでサウジを訪問、皇太子と会談した。国家安全保障問題担当のサリバン大統領補佐官を手始めに、中央情報局(CIA)のバーンズ長官、マクガーク中東問題補佐官、ホチェスタイン・エネルギー担当補佐官らだ。これら訪問の締めを飾ったのがブリンケン国務長官である。

 サウジは6月6日のブリンケン長官の訪問直前、米国と敵対するベネズエラのマドゥロ大統領を国賓として迎えており、これも〝サウジ・ファースト〟外交を見せつけたものと受け止められている。サウジ側は長官に対し「米国か中国かのいずれに加担するのか」といった「二者選択」を受け入れるようなことはしないとし、「ゼロサム」ではなく「多面外交」を採用する考えを強調したという。

 現地情報によると、一連の会談でブリンケン長官は一つの難題を背負うことになった。それは核開発への支援要請だ。サウジは民生用の原発建設などを目指しているが、米国が手助けしなければ、中国やロシアに依頼する可能性を示唆したとされる。

 米国は中東の核拡散に慎重な姿勢で、イランの核開発をどう阻止していくのかと合わせ、今後、対応に苦慮することになるのは必至だろう。

   
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