2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2023年6月14日

 6月、米男子ゴルフのPGAツアーが突然、サウジが主導する高額ツアー「LIVゴルフ」との事業統合を発表したが、これも「世界のスポーツ界を牛耳りたいという皇太子の野望の一環」(識者)だ。PGAツアーのコミッショナーらが「LIVゴルフ」を罵ってきていただけに、180度の転換。選手らから「裏切り」の声も上がっているが、皇太子の剛腕ぶりが際立つ格好だ。

 皇太子の力の源泉である石油でも指導力が発揮された。サウジの影響力が強い「石油輸出国機構(OPEC)プラス」は6月4日、協調減産の枠組みを来年末まで1年間、延長することで合意。しかもサウジは7月の1カ月間、追加で日量100万バレルを自主減産することを決定した。

 こうしたサウジの独自路線は自国の利益を第一に考える〝サウジ・ファースト(サウジ第一主義)〟と言えるだろう。皇太子と親密だったトランプ前米大統領の「米国第一主義」を彷彿させる動きだ。トランプ氏の政敵であるバイデン大統領にとっては不都合な展開だ。

米国への経済的な報復を示唆

 バイデン大統領は元々、独裁的なムハンマド皇太子とは肌が合わない。大統領選挙期間中には、サウジ反体制派ジャーナリストの暗殺事件に絡み、「皇太子を世界の除け者にしてやる」とまで批判。就任後は「皇太子が暗殺を命じた」という米情報機関の報告書を公表し、関係が冷え切った。

 しかし、大統領は昨年、ガソリン価格などインフレが秋の米中間選挙に悪影響を与えることを懸念、7月にわざわざサウジを訪問して皇太子に石油増産を要請した。ところが「石油輸出国機構(OPEC)プラス」は3カ月後、バイデン氏の求めを嘲笑うかのように減産を決定した。

 バイデン氏はサウジに足を運び、皇太子に頭を下げるまでしたが、完全に虚仮(こけ)にされた形になった。激怒したバイデンが「対サウジ関係の見直し」や「結果を突き付けてやる」と懲罰をほのめかしたのはショックの大きさを逆に物語っている。

 だが、6月8日付の米紙ワシントン・ポストによると、ムハンマド皇太子はこのバイデン発言を受け、水面下で「報復」を示唆していたという。皇太子は「米政権とはもう付き合わない」「米国に大規模な経済的結果をもたらしてやる」と語ったとされるが、米国相手にこの強気の発言には驚かされるばかりだ。


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