そこで、インドは他国に依存せず、武器を国産化することにした。ロシア製の武器の部品の中で、どうしても必要な部品を100以上特定し、自ら製造する取り組みを進めている。だが、それだけでは不足だ。国産の戦闘機や戦車をもっと採用することにした。
ところが、国産といっても、実際には、すべての部品を国産化できているわけではなく、むしろ多くの重要な部品を輸入して合体させる必要がある。その例が、国産戦闘機テジャズのエンジンである。
今回、米国が合意したのは、このテジャズのエンジンに関する技術を、米国がインドに提供し、共同生産するというものだ。国産技術を高めたいインドと、インドに対するロシアの影響力を削ぎたい米国の利害が、一致したのである。
ところが、このエンジンの共同生産の影響は、それだけではない。実は、インドの武器生産技術は徐々に高まっており、輸出につながっているのだ。
例えば、先ほどの国産戦闘機テジャズは、スリランカやマレーシアなどが採用を検討している。軽戦闘機であるから、飛行場などの設備があまり豪華でなくても運用できる。値段は安いのである。
そうすると、このテジャズが輸出される先は、比較的お金のない国々である。豪華な米国製の武器を買う国々ではなく、もっと安い武器を探している国だ。それは、主に、中国製の武器を購入している国々である。つまり、インドと中国の競争になる。
インドが勝てば、中国が武器を通じて示してきた影響力を削ぐことになるのだ。だから、重要なのである。
米海軍艦艇をインドの港で修理
さらに今回の米印の合意には興味深い記述がある。それは、米海軍艦艇および航空機を、インドの港で整備・修理できるようにするというものだ。整備・修理の拠点を持つということは、米海軍がより容易にインド洋に展開することを意味する。
インドは、米ソ冷戦時代、米海軍に対して警戒感を隠さなかった。1962年の印中戦争では、米空母はインド支援のために派遣されたが、71年の第3次印パ戦争では、インドを威嚇するために、米空母が派遣された。87~90年のインドのスリランカへの平和維持軍派遣(インド版ベトナム戦争とよばれる泥沼の戦いになった)も、米海軍がスリランカを拠点化することを警戒した結果、起きたことである。インド海軍は米空母に備え、ソ連の支援を受けながら潜水艦と対艦ミサイルを配備していた。
このような関係が変わったのは、ソ連が崩壊した後の92年、米印海軍共同演習マラバールが始まってからだ。訓練は継続し、関係はこの30年、だんだん改善していった。
そして、2000年代後半からは、中国海軍のインド洋進出が活発になり、状況は大きく変わった。中国は、インドの周辺国に武器を輸出し、その訓練などを名目にインストラクターを派遣するなどして、存在感を示し始めた。
そして、港湾施設などインフラ建設を通じて、インドの周辺国で影響力を拡大した。さらに、ソマリア海賊対処に参加するようになると、海賊対処を名目に潜水艦まで派遣するようになった。今では常時6~8隻程度の中国艦艇がインド洋に展開している状態になっている。
こうして、インドの米海軍に対する警戒感はなくなり、米印両国は、中国に対抗するために連携するようになっていったのである。今回の合意で、インドの港で整備・修理する米海軍艦艇・航空機は増えていくだろう。
修理・整備ができれば、より多くの艦艇・航空機がインド洋に配備されるはずである。米海軍はインド洋や東南アジアを担当する第1艦隊創設を検討しているから、その基盤になっていくことが予想されるのである。