2024年5月18日(土)

勝負の分かれ目

2023年7月13日

 技術が高く、周りがよく見えているのでプレーに無駄がない。だからミスが極めて少ない。間合いも絶妙であるため、ボールを奪われるリスクがほとんどない。そうしたイニエスタの描くビジョンを周囲が感じて動くことができれば、絶妙のタイミングでパスが出てくるのだ。

 誰もイニエスタのプレーをそのまま真似できる訳ではない。しかし、そうしたワールドクラスのプレー基準を間近に知ることにより、パスを出す側、受ける側の目線というのは引き上がる。それは対戦相手としてピッチに立つ選手もそうだ。

刺激を受け世界に羽ばたいた選手たち

 Jリーグはこの5年間でも成長を続けているが、イニエスタが与えた影響は少なくないだろう。欧州主要リーグのクラブに移籍し、ステップアップを果たしている日本代表クラスの選手も、多くはイニエスタと同じピッチに立っており、刺激を受けたはずだ。

 イニエスタが来日してまもない18年の8月26日、当時17歳だった久保建英はFC東京から横浜F・マリノスに期限付き移籍していた。そして、バルセロナの下部組織の大先輩でもあるイニエスタの前でゴールを決めた試合後にこう語っている。

 「大先輩と言っても向こうはバルセロナのトップチームでやっていて、自分は軽く育成をかじったぐらいなので。まあ、おこがましいんですけど……。自分が言うまでもなく、誰が見ても上手いんじゃないかなと。その一言というか。自分が語っても正直、今は天と地ほどの差があると思っているので。その差を自分はすごいとか言わずに、その差を埋めたいと思ってやっているので。少しでも縮められるように努力したいと思います」

 そこから確かな成長を遂げて、翌年の夏を前にスペインへと旅立った久保についてイニエスタは「素晴らしい将来が待っている」と語っていた。久保はバルセロナではなくライバルのレアル・マドリードに加入し、そこからいくつかの期限付き移籍を経て、22-23シーズンにはスペイン1部のレアル・ソシエダで目覚ましい活躍を見せたが、ちょうど5年前に感じたことが、その先の道につながって行っただろう。

 横浜F・マリノスを22年のリーグ優勝に導き、JリーグのMVPを獲得した岩田智輝。現在、古橋と同じセルティックに所属する気鋭のMFも、イニエスタに影響を受けた一人だ。

 ただし、久保のようなケースとは異なる。イニエスタにとって来日2年目の19年、当時まだ大分トリニータの選手だった岩田は8月10日の神戸戦で、イニエスタと激しいマッチアップを繰り広げた。その際、ボールを奪おうとしたイニエスタの足が脛に入り、岩田は転倒。起き上がると怒りを露わにして一触即発のシーンになったのだ。

 結局、冷静になって握手を交わした二人は翌年のキックオフカンファレンスで、神戸と大分の代表選手として同席。岩田が控え室で改めて当時のことを謝ると、イニエスタは笑顔で「全然いいよ。気にしてない」と返してきたという。

 マリノスに移籍後も時にボランチとして、時にセンターバックとして獅子奮迅のプレーを見せた。1対1の強さに自信を持つ岩田だが、イニエスタのような選手とのマッチアップは成長の糧であり、Jリーグにいながらにして、貴重な経験ができたことは間違いないだろう。


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