状況が我慢比べのようになりつつあったところで起きたプリゴジンの反乱は、ウクライナおよび西側にとって大きなチャンスをもたらしている。これを機にロシアに対する圧力をさらに強めるべきとの指摘は妥当である。
この事件自体、まだ疑問が多いが、そのいくつかは比較的短期に結果が判明するものがあり、そこからプーチンの被った打撃や今後の影響をより正確に評価できるのではないかと思われる。
この反乱の直接の動機は、全ての軍事会社の兵士は7月1日までに国防省と契約を結ぶべしとの命令をプリコジンが承服せず、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の更迭を要求するためだったとされる。そのような展開となったのは、空軍総司令官など、軍や諜報機関のハイレベルにプリゴジンの要求に同調する勢力があったためのようである。これら軍人などは、早々に粛清されるだろうが、それがどの程度の範囲に及ぶのかが注目される。プーチンとしては組織の動揺を極小化するために少人数の粛清に留めたいかもしれないが、そうすると不満分子が残るというジレンマがある。
プリゴジンはロシア軍のヘリコプターや軍用機を撃墜した責任があり、6月23日のSNS動画でNATOやウクライナはロシア攻撃の意図はなく、ロシア国防省がプーチン大統領をだまして特別軍事作戦が始まったと主張し、プーチンのウクライナ侵攻の大義を真正面から否定した。プリゴジンの処遇は、プーチンの指導者としてのリーダーシップや信頼性にかかわる問題である。
ウクライナ侵攻の一翼を担っていたワグネルの行方は
民間軍事会社ワグネルは、ロシア国内では解体されるようであるが、ベラルーシに建設された駐留拠点は何をするためのものなのであろうか。どのぐらいのワグネル兵士がベラルーシに向かったのであろうか。ウクライナ侵攻の兵力からワグネルがいなくなれば、ロシアにとって痛手であることは間違いないのではなかろうか。逆に、ベラルーシを拠点に何らかの活動を続けることは新たな脅威となる。
アフリカや中東に展開しているワグネル組織はどうなるのだろうか。これらの活動や利権をロシア国防省がそのまま引き継ぐわけにはいかないであろう。では、プリゴジンとワグネルは、これらの地域については活動の継続が許されるのであろうか。いずれにせよ、ワグネルへの資金提供を公に認め、プリゴジンがそれを不正使用していたとして責任を追及しようとする動きもある中、ワグネルを通じたこれら地域での工作が混乱、停滞すればロシアの影響力が後退するのは避けられず、プーチン政権への打撃となるであろう。
いずれにせよ一貫性のないプーチンの対応やロシア指導部内の対立、ワグネルの処理をめぐる混乱などは、プーチンの指導力や前線の兵士の士気にも更に影響を与える問題である。従って、上記社説が指摘しているように、持久戦になればロシアに有利とのプーチンの戦略をくじく意味でも、西側同盟国がその決意を新たにすべき時であり、ウクライナへの支援の強化、将来のウクライナの安全保障についてのコミット、加えてアフリカなどでの巻き返し、更には、ロシア国民への情報提供の強化などに努力すべきなのであろう。