2024年5月28日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月26日

 英フィナンシャル・タイムズ紙欧州エディターのベン・ホールが、6月6日付の論説‘Dam breach gives Russia a new weapon in Ukraine war’で、ウクライナのカホフカ・ダムの破壊は、ロシアの新手の武器であり、壊滅的な洪水による惨事が、ウクライナの反転攻勢から注意を削ぐことは避けられないと論じている。要旨は次の通り。

ウクライナ南部ヘルソン州オレシキ市の浸水した家々(写真:AP/アフロ)

 ドニエプル川のカホフカ・ダムの破壊は心理ゲームを遥かに超えるものである。それは人道上・環境上の長期にわたる影響を持つとともに軍事的な意味合いを有することとなる。

 ロシア側はダムの決壊はウクライナの「サボタージュ」によると言っているが、ウクライナ当局は、ウクライナ軍が6月5日に解放したドニエプル川の島(複数)を橋頭堡に利用して東岸を渡河強襲することを阻止するために、ロシアの部隊によってダムは破壊されたのかもしれないと言っている。

 このルートが大規模なウクライナの反転攻勢のルートとして考えられたことはないと思われる。しかし、ダムの破壊は他の地域における攻勢を支援する目的で南部において小規模な攻撃を仕掛けるというウクライナのオプションを狭め得る。また、ロシアが防衛ラインのより脆弱な部分に部隊を再配置することを可能にするであろう。

 一方、ウクライナ当局は取り組むべき人道上の惨事を抱えることとなるが、それにより、重大な夏の反転攻勢に対する政府の注意が削がれることは不可避である。理論的には、ダム上流の水量が流失することはザポリージャ原子力発電所に対する水の供給を脅かす。その6基の原子炉は閉鎖され、必要とされる冷却水は減っているが、何らかの核事故の可能性は以前より高まっているように思える。

 ダムの爆破は、ウクライナの枢要なインフラを破壊し、経済を劣化させ、地域住民を疲弊させ追い出すというロシア側の徹底破壊戦略に適合するものである。このダムはウクライナ南部中央の元来は乾燥した主要な穀倉地帯に灌漑用の水を供給している。また、ウクライナ中部のクリヴィー・リフのような大都市および運河を通じてクリミアにも飲料水を供給している。

 モスクワはクリミアに対する水の代替供給源の問題に取り組む必要があろう。しかし、当面、ロシア政府はウクライナ軍の進撃を阻止することの方に心を奪われているようである。カホフカ・ダムの破壊は、ロシア政府は依然として戦争をエスカレートさせる能力があるとのメッセージを送るものである。問題は、どこまで行く用意があるのかである。ロシア政府はウクライナとその西側の同盟国がロシアには多数のオプションが残されていると信じることを望んでいる。

*   *   *

 カホフカ・ダムの破壊はロシアが仕掛けたと見ることが自然である。ウクライナがこのダムの破壊から得られるものは何もない。クリミアへの水の供給を阻害できるのかもしれないが、反転攻勢にとっての重大な障害と国土の破滅的惨事というウクライナにとっての不利益は圧倒的に大きい。


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