5月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、‘The scandal of South Africa’s alleged arms to Russia’(南アフリカの対露武器供与疑惑)と題する社説を掲げ、ウクライナ戦争で中立を標榜している南アの実際の行動はロシア寄りで、今回の疑惑は南アにとって重大な結果を招き得る、と指摘している。要旨は以下の通り。
駐南ア米国大使が、南アに停泊するロシア向け輸送船に武器が積み込まれている疑いを提起したことを受け、南アと米国の間で外交的嵐が吹いている。3つの可能性があるが、内2つは南アと与党アフリカ民族会議(ANC)に相当悪影響を及ぼす。
第一は、ラマポーザ政権は昨年12月に起きた、同国南西部サイモンズタウンの海軍基地でのロシア貨物船「レディー R」への武器積み込みを全く知らなかった可能性だ。そうだとすると、同地は安全な軍事基地のはずであることから考えれば、驚くべきことだ。しかし、ANCの機能不全と、国家組織中核への汚職と犯罪の浸透から考えると、可能性がない訳ではない。
第二は、政府は対ロシア武器輸出を十分に知っていた可能性だ。この場合、30年以上前のソ連によるANC解放闘争への支持に呼応した忠誠心からか、新興5カ国(BRICS)所属国支援の義務感からだろう。これは、南ア政府が西側制裁に反し意図的に対露武器供与をしていたことを意味する。
第三は、米国の情報が間違っている可能性だが、米国が「レディーR」を監視していた衛星の数から見れば可能性は低い。
南アは、ロシア・ウクライナ戦争につき中立を宣言していたが、実際の行動はロシアに近い。2月には自国沖で露中と海軍共同演習を実施した。ラマポーザは公の場でプーチンにへつらってきた。
南アの歪んだ道筋は、より大きな問題を提起する。開発途上国が多極世界の中で、自らの利益をより反映する新世界秩序を模索するのは正当なことだ。第二次世界大戦後作られた国際通貨基金(IMF)、国連などの組織は世界の現状を反映していないという彼らの指摘は正しい。
しかし、南アの行動は、その実現の正しいやり方ではない。ロシア・ウクライナ戦争への南アの対応のぶれは、米国主導のルールに基づく秩序を何らかの一貫した信頼性のあるものに置き換えるのは簡単ではないという現実を反映している。
南アは独自外交ができる主権国家だとの擁護もあるが、それは、南アがロシア寄りの立ち位置を中立と誤魔化せることを意味しない。南アは、アパルトヘイト政権転覆で生じた国際的善意から多くを裨益し、米欧市場への優先的アクセスを享受している。これは自動車他の産業にとり大きな恩恵だ。もし南アがプーチンと運命を共にしたいなら、それは南ア次第だが、その選択は結果を伴うことを知るべきだ。
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5月11日、南アの対露武器輸出疑惑を在南ア米国大使が指摘した。深刻なのは、米側が、昨年12月のロシア向け船舶への武器の積み込みは、南アの海軍基地内で行われたと指摘していることだ。