2024年5月5日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月7日

 上記の社説が指摘するように、米国のインテリジェンスが間違っていない限り、これは、南ア政府が軍事基地内の活動さえ十分コントロールできていないか、または、対外的な中立維持表明に反して、現実には武器の供給を支援すると言う最も重大な協力をロシアにしていたかのどちらかで、どちらでも、南アの信頼性への大打撃であることは間違いない。

 これに対する南ア政府の対応はいかにも腰が引けており、疑惑を一層強めている。本来、統治が安定していれば、このような深刻な疑惑に対しては相当早い段階で当否につきある程度はっきりした発言が出来るはずだし、場所が海軍基地内なら尚更だ。本件が対外的に明らかになる前に米側が内々南ア側に連絡したことは、南ア政府も認めている。

 ということは、米国大使が本件を敢えて公表したのは、南ア側の対応が十分迅速でなかったことからである可能性が高い。そして、結局大統領が調査を命じるという非常に不名誉な結果になってしまった。

 南アの「裏切り」が武器供給支援という最もネガティブな形で行われ、かつ、南アに対する各種優遇措置を取ってきた西側の「善意」への真っ向からの挑戦であることから、今後の厳しい「結果」は避けがたいだろう。

BRICSに縋る以外に道はなし

 南アは、地域組織のアフリカ連合(AU)のメンバーであることに加え、地域横断的で「国力」で選ばれる20カ国・地域(G20)やBRICSのメンバーでもある。

 一方、個別の国力の指標を見ると、名目国内総生産(GDP)ではG20の中で最も低く、世界の38位。BRICSの中でも、GDPは他のメンバーが軒並み一桁台の順位の中で群を抜いて低いし、人口でも唯一1億人以下の6000万人強に過ぎない。一人当たりのGDPでは、何とかインドの倍以上は有るが、7000ドルにも満たない。

 アフリカの中でさえ、最早南アを「アフリカの雄」と呼ぶには躊躇する。GDPこそ、ナイジェリア、エジプトに次ぐアフリカ中3位で他に頭一つ先んじているが、人口も一人当たりGDPもアフリカ中6位に過ぎず、上位国を抜く勢いは見られない。

 要するに、アフリカから欧州が引き揚げ、代わりに中国、ロシアの進出が増す中で、これだけの国力しかない南アフリカにとって、中露に近い立ち位置を取り、BRICSという枠組みを最大限活用する以外に、あまり選択肢はないように思われる。

 最後に、BRICSという面倒な「塊」にわれわれがどう直面していくべきかについて付言しておきたい。インドはBRICSと日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の双方に関与し、一定程度BRICS活動のスローダウンを実現している。

 われわれが次にBRICSに手を突っ込むとすれば、ある程度の地力を持ち、中露と対立する気はないが言われる通りにもならず、自らの影響力伸長を最優先するブラジルだろう。その意味で、若干の不確定要素がある中、反米・反主要7カ国(G7)だが親日のルーラ大統領を広島に招待したのは適切であったと言えよう。

   
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