英フィナンシャル・タイムズ紙アフリカ担当編集者のピリングが2月23日付け同紙の論説で‘South Africa’s Russia stance show sit haslost the moral high ground’、南アフリカは最近の対ロシア傾斜等により高い道徳的優位を失った、これまでの倫理的非同盟外交から「力は正義なり」に転換してしまった、と述べている。主要点は次の通り。
外交について、南アフリカは道徳大国だった。1994年のアパルトヘイト終焉の直前、マンデラ大統領(当時)は人権や民主主義、正義、国際法の推進等の道徳的、非同盟の外交原則を定め、同国は世界の善意を手に入れた。与党・アフリカ民族会議(ANC)はアパルトヘイト政権を倒し、「虹の国(注:全民族を包含する国の意)」の建設を決意した。
しかし、それも今は昔だ。南アフリカは、ロシア、中国と合同海軍演習を行っている。南アフリカは、ウクライナ戦争の責任は北大西洋条約機構(NATO)拡大で過度にロシアを追い込んだ米欧側にあり、ウクライナは対ロ代理戦争をしている、との見解の擁護者になった。
南アフリカの立場は段々とロシア寄りになった。ロシアがウクライナ侵略を始めた時、南アフリカのパンドール外相はロシアの即時撤退を要求、全ての国の「主権と領土保全」が尊重されねばならないと強調した。
その主張は変わった。その後、南アフリカは西側に対し、プーチンを追い込むなと警告する。1月、パンドールはロシアのラブロフ外相を温かく迎え、ロシア軍撤退要求は「短絡的で子供じみている」と述べた。南アフリカは、人権や非同盟の尊重ではなく、「力は正義なり」になっている。「交渉による和平」要求は、ロシアの侵略に見返りを与えることに等しい。
南アフリカは、BRICSの一員になった時、西側に対抗する大国体制の一部を占めるビッグ・プレーヤーになったと感じ始めた。
2015年、南アフリカは、国際刑事裁判所(ICC)により指名手配されていたスーダンの独裁者バシールのヨハネスブルグ首脳会議への参加を許した。ICCによる同氏の出国阻止命令も無視した。
与党ANCの最近の排外的傾向は、アパルトヘイト闘争を支援してくれたアフリカ諸国に対する南アフリカの道義的権威を傷つけている。ANCは、反移民感情を鼓舞さえしている。最近の南アフリカにアフリカのリーダーシップを求める国は少なくなっている。
南アフリカは外交において、理想主義と国益確保との間で、どっちつかずのリスクを冒している。対露傾斜は、アパルトヘイト時代のソ連からの支援の記憶に動機があるが、その政策は独裁者擁護になっている。それは、ロシアがウクライナ戦争に勝たない限り、実利的とも言えない。今や南アフリカの高い道徳的優位はなくなっている。
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最近の南アフリカ外交は、奇異で、不可解だ。ウクライナ戦争に係る国連決議には、一貫して棄権している(2月23日のロシア軍の「即時、完全かつ無条件の撤退」等を求める決議案にも棄権)。中国との関係も一層緊密化している。特に注目されるのは、1月のラブロフ外相の南アフリカ訪問と2月17~27日の南アフリカ・中露海軍合同演習である。ラブロフとパンドールが満面の笑みで握手する写真は、不可解であり、不吉でさえある。