ピリングは、南アフリカは対露傾斜によりかつての「高い道徳的優位を失った」と厳しく批判する。それは当たっている。侵略という基本的問題に対する曖昧な判断は、致命的だ。マンデラの高い道徳的な価値に基づく外交を取戻すことが望まれる。
日本を含め西側は、南アフリカとの関係を一層強化する必要がある。ブリンケン米国務長官は2022年8月に南アフリカを訪問、同年9月南アフリカのラマポーザ大統領は訪米しバイデン米大統領と会談した。「良い」政治エリート達との関係を推進するとともに、一般国民との関係強化が重要である。今の南アフリカのエリートは玉石混淆だ。
ラマポーザが、今年7月26~29日開催予定の第二回ロシア・アフリカ首脳・経済会議に出席するかどうかが注目されている。南アフリカを訪問したラブロフが、ラマポーザの参加を求めたことは想像に難くない。
対露・対中傾斜の背景にANCの歴史も?
なぜ南アフリカは対露、対中傾斜を強めるのか。理由として、①反アパルトヘイト闘争支援の恩義、②貿易・経済・資金援助への期待、③西側のやり方への一般的な反感、④BRICSの連帯等が挙げられる。BRICSを通じる有形、無形の圧力はあるかもしれない。それでもウクライナに関する南アフリカの当初の立場が、何故ロシア傾斜に変わったのかなどは分からない。
2月19日付の英エコノミスト誌記事(「なぜ南アフリカは中ロ軌道に漂流するのか」)は、ANCのエリートには親ロシア派が沢山いるとの、ひとつの説得的な分析を示している。アパルトヘイト闘争時代の支援を通じた人間関係が、同国のエリート達の隙間に入り込んでいたとしても不思議ではない。
アパルトヘイト闘争の武器を供給したのは、ソ連、中国、北朝鮮などであった。ANCの幹部はこれらの国に渡って訓練を受けた。ANCの実力部隊は後年に南アフリカ軍に吸収された。こうした経緯もある。