ルカシェンコとしては、これ以上ロシアに取り込まれて自らの権力を浸食されることは避けたく、どうにかしてそれ以外のパートナーを確保しようという外国行脚であった。ただ、ジンバブエあたりに多くは期待できず、現実的には中国との経済協力がロシア一極依存を多少なりとも軽減しうる手段となろう。もっとも、欧州連合(EU)・ベラルーシ関係が悪化の一途をたどる現状では、中国にとり欧州をにらんだ橋頭保としてのベラルーシの利用価値は下がる一方である。
そんなベラルーシで、今般注目を集めたのが、上海協力機構への加盟申請である。この組織は、もともとはロシアと中国が主体となり、その狭間にある中央アジア諸国を巻き込んで、地域情勢の安定などを目指したものだった。その後、インド、パキスタン、イランを加盟国に加えてはいるものの、あくまでもアジアの枠組みであった。そうした中、地理的には純然たる欧州国であるベラルーシが、2015年にオブザーバー参加し、そして今般正式加盟申請をして、2024年初頭にも承認されると見込まれているわけである。
ベラルーシの元外交官であるP.マツケヴィチは、ルカシェンコにとり上海協力機構は都合の良い舞台であると指摘する。欧米諸国と異なり、上海協力機構加盟諸国はすべて、ルカシェンコを正式に選出された大統領と認めている。そのサミットでは、ルカシェンコは核保有国を含む外国元首と同格のパートナーという実感を味わえる。それは、ベラルーシがいまだに主権国家であり、ルカシェンコが引き続き多元外交の姿勢を崩していないと誇示する場となる。もはやロシアと西側の間でバランスをとるのは不可能なので、新たな支柱、とりわけ中国に頼ろうとしているというのが、マツケヴィチの分析である。
プリゴジンの人脈も活用か
先日には、中国・杭州で9月に開幕する第19回アジア競技大会に、ロシアとベラルーシの選手が中立の立場で参加することが認められたという驚きのニュースが報じられた。地理的な観点だけから言えば、ロシアの国土がアジア領も含んでいることは事実だが、ロシアと抱き合わせのような形でベラルーシまでアジアに押し付けられるとしたら、釈然としない。
アフリカに目を転じると、上述の通りルカシェンコのワグネル活用法につき一連のシナリオが取り沙汰される中で、アフリカ利権との絡みを指摘する声もある。たとえばベラルーシは、ルカシェンコの家族や出入りの政商がかかわる形で、スーダンにおける金採掘などを手掛けている。
今後ベラルーシがアフリカに利権を広げていく上で、プリゴジンが同大陸で築いてきた人脈や実績が役立つかもしれないし、あるいは現地武装勢力からビジネスを守るのにワグネルの兵力を使えるかもしれない。ルカシェンコはそんな思惑を抱いているのではないかという指摘が少なくない。
一説によると、ヨーロッパの地理的中心は、ベラルーシにあると言われる(諸説ある)。しかし、政治・経済的には、ベラルーシは露中をはじめとする東の重力にますます引き寄せられ、もはや欧州国としての面影は失っている。